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千尋と桜ノ宮と食堂3
「わぁッ!」
思いっきり躓いたフリをして、手にした湯呑みのお茶をぶっかけて転んだ。
平野に。
「ちょっと!! 何すんのさ!」
とばっちりで、ちょびっとお茶がかかった親衛隊がギャーギャー騒いだ。
俺は床にペタンと座ったまま、
「ごめんなさいぃ~」
と、しおらしく謝った。うちのクラスのチワワ連中の真似だ。
食堂がシーンとした後、一気に騒ついた。
「千尋っ!」
ナウシカ兄さんが慌てて俺に寄ってこようとするのを桜ノ宮が止めた。
「大丈夫? 平野君。それに君は………」
俺は立ち上がって、まっすぐ桜ノ宮を見た。
「有栖川です。俺は大丈夫」
すぐに視線を平野に戻して、心配するように平野の手を取った。
「ごめん。火傷してない? 大丈夫?」
「あ、有栖川くん………」
お茶はとっくに冷めてたし、火傷することはないんだけど。
「どこ行くの?」
平野の手を引いて歩き出した俺に、桜ノ宮が聞いた。
「保健室。俺のせいで火傷しちゃったかもしれないし。俺の不注意で、お騒がせしてごめんなさいっ!」
俺はガバッと頭を下げて、そこそこ大きな声で謝った。
食堂の人が慌ててタオルを持って走ってきたので、俺は平野の手を引っ張って食堂を出て行った。
「食堂の人もごめんなさい! お茶こぼしちゃって。とりあえず保健室行ってきますから!」
ちらっと見えた美村が「あちゃー」って顔してた。園田は最高にキラキラ顔してた。
騒つく食堂では………
「やっぱり面白い奴だ」
生徒会長が笑って言った。
副会長も微笑を浮かべて、
「ええ。本当に」と、低い声で呟いた。
書記は不安げな顔で見送り、会計は面白そうな顔をしていた。
桜ノ宮桜真は、分厚いメガネでカモフラージュしている猛禽類のような視線を有栖川千尋の後ろ姿に送っていた。
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