205 / 306
千尋と平凡くん1
俺は平野の腕を引っ張って、だかだか歩いてった。
「あ、有栖川くん!」
平野の戸惑った声に足を止める。
「ごめん。勝手なことして」
「えっ?」
俺はポケットからハンカチを出して、お茶がかかった平野のシャツを拭いた。
そして平野の目を見て言った。
「でも、ほっとけなかった。平野に嫌がらせしてんの。あいつらだろ」
「………有栖川くん」
うう。つい行動しちゃったけど、余計なことだったかも。おせっかいだったかも。今更ながら、冷や汗が出てきた。
「ありがとう」
「えっ」
「こんな風に心配して、行動してくれたの有栖川くんだけだ」
平野が潤んだ瞳で俺を見た。
「でも、僕に関わっちゃったら、有栖川くんまで親衛隊に目を付けられるんじゃ………」
「ああ。それは別にいいんだけど」
お局OLみたいな嫌がらせくらい、どうってことない。もと社蓄リーマンですから、パワハラには慣れてる。
「それよりも怖いのは………」
言いかけた時に校内放送が廊下に響いた。
『1-B有栖川千尋、1-D平野悠二、風紀室に来い。今すぐにだ』
平野がビクっと肩を震わせた。
「ハリウッド委員長だ」
早すぎ~! 美村か、チクったのは。
あんだけ目立ったんだ。すぐに伝わっちゃっただろうけど。
俺は平野の手を引いて、風紀室に向かった。
ともだちにシェアしよう!