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千尋と1仏陀と1ベッドの夜3[side 高槻]
風呂から上がった千尋がミネラルウォーターを持って、俺の隣に座ってきた。
風呂上がりの体から、ほのかに甘い匂いがした。
コクコクとミネラルウォーターを飲む横顔をじっと見ていたら、
「お風呂入らないの?」
と、千尋が小首をかしげて聞いてきた。
「っ!」
その顔がめちゃくちゃ可愛かった。
俺は慌てて風呂場に向かった。
落ち着け。どうしたというんだ。
自分でも分からない。見慣れた千尋の顔のはずなのに。
俺はシャワールームで頭から水を浴びた。
シャワーを浴びてさっぱりした。
落ち着いた気持ちでリビングに戻り、冷蔵庫から出した水を飲んで一息ついた。
「千尋?」
千尋は映画を見ながら、ソファで寝てしまったようだ。子供みたいな顔で、すやすやと寝息をたてて。
………起こすのも可哀想だな。
俺は千尋をそっと抱き上げた。
華奢な体の心地よい重みに、何故だか少し切ない気持ちになる。
自室へ運んで、眠る千尋をベッドに横たえた。セミダブルだから、二人でも寝れるだろう。
千尋を壁際に寝かせて、電気を消して俺もベッドに入った。
千尋は熟睡しているようだ。
カーテン越しに、ベランダの外灯のほのかな光が千尋の寝顔を薄っすら照らしていた。
なんとなくその寝顔を見ながら、初めて千尋と会った日の事を思い出した。
『有栖川千尋です。父が無理をお願いして、申し訳ありません。ご迷惑かもしれませんが、今日からよろしくお願いします』
千尋はそう言って深々と頭を下げた。
もっと世間知らずな箱入り息子だと思っていたので、意外だなと少し驚いたんだった。
千尋は見た目に反して、気取らず無邪気で、正義感が強くて優しい。
美形の大阪この学園でも、他にいないくらいに綺麗な顔立ちをしているのに無自覚だ。
時々、無鉄砲で心配になるが……。
もっと頼ってくれるといいのに。
だが千尋が周りを頼り、この学園の美形連中のように信奉者を従えるような子だったら、こんなにも惹かれなかったかもしれない。
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