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眠り姫とコミュ障の王子様5
俺はじっとナウシカ兄さんの………蓮の顔を見つめた。
「千尋?」
薄いガラスみたいに綺麗な茶色い瞳で、不思議そうに俺を見てる。
この人は本当は何でも持ってる。
お金も、優しさも、強さも。
俺は蓮は寂しいんじゃないかって思ってた。俺でよかったら友達になれたらって思った。
でも、蓮の為に動いてくれる親衛隊がちゃんといる。
桜ノ宮だって。
あの日、食堂で桜ノ宮に笑いかけていた蓮の顔を思い出す。
………俺、馬鹿みたいだ。
てゆうか、馬鹿だ。分かっちゃいたけど、情けない。早く一人になりたかった。
「千尋? どうしたの? ケガが痛いの?」
純粋に心配してくれている蓮の顔を見ていられなくて、俺は俯いて口早に言った。
「手当てしてくれてありがとう。それに助けてくれてありがと。後のことは蓮に任せちゃうけど、ごめんね」
俺は立ち上がって「帰るね」と、足早に玄関に向かった。
「千尋!? 待って!」
ごめん。待てない。こんな情けない顔、誰にも見られたくない。
だけど、すぐに捕まった。ちょっと強引に振り向かせられる。
「離せってば!」
「千尋」
繊細な手で両頬を包まれ、顔を上げさせられた。こんな顔、見られたくないってゆうのに。
「どうしてそんな顔してるの? ちゃんと話して」
「何でもない。ほっといて」
「ほっとけないよ」
俺は少しイラついた。
「俺の事、避けてたの。蓮の方じゃないか」
蓮が傷付いたような顔をした。
そんな顔、させたいわけじゃないのに。
「………ごめん」
ますます情けなくなって、目線を下げて謝った。
「千尋は謝る必要ないよ。俺のほうこそ、ごめん。ずっと避けてて」
あ、やっぱり避けられてたんだ。
いかん。泣きそうだ。
思わず唇をキュッと噛んだら、蓮に抱きしめられていた。
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