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眠り姫とコミュ障の王子様7[side 南方]
【side 南方】
千尋が急に慌てて帰ると言い出した。
「慌てなくても大丈夫だよ」
「俺、高槻先輩に内緒で抜け出して来てるから。起きる前に帰らなきゃ!」
千尋の焦った表情を見て、俺は桜真の言葉を思い出した。
『高槻先輩の体罰も………』
まさか………
「千尋。高槻に何かされてるの?」
千尋の腕を掴んで聞いた。
「いや? ただ、バレたらちょっと面倒くさいんだよ」
本当に? 俺は少し不安になる。
このまま千尋を帰してもいいんだろうか。
「蓮? 離してくれない? ほんとに帰らなきゃ」
千尋が困った顔で俺を見上げた。千尋を困らせたい訳じゃない。
俺はそっと腕を離して、千尋の頬を撫でた。
「何かあったら俺に話して」
「? うん」
今の俺じゃ頼りない。人と関わるのを恐れて、ずっと自分の世界に引きこもっているんだ。
俺じゃ千尋を守れない。
もっと強くなりたい。
「………俺、強くなるから」
千尋は不思議そうな顔をして笑った。
「蓮は強いよ」
その笑顔と言葉に胸がぎゅっと締め付けられた。
「千尋」
「またメールするね」
そして、千尋は急いで部屋を出て行った。
俺は千尋が行ってしまった後も、閉ざされた扉をじっと見ていた。
この扉を自分で開けて、外に出なければ千尋の隣には立てない。
俺は静かに、ある決意をした。
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