263 / 306
千尋と病院1
【side 千尋】
あの後、俺は伊丹先生の車で北条先生の病院まで連れていかれた。
そのまま入院して検査したけど、やっぱり原因は分からなかった。
「だから、なるようにしかならないんですってば」
「しかし………」
俺は病室で北条先生と話していた。
「だって脳移植なんて、トンデモ手術してんだし。ちょっとくらい副作用あるよ。今回はいろいろ重なったからだし。俺、もう退院していいでしょ?」
あれから二日経ってる。
面会謝絶にされて、ずーっと検査やらなにやらされて、俺はうんざりしていた。
スマホも取り上げられたので、あの後どうなったのかも分からない。すげぇ気になってるんだけど。
「有栖川様は明日帰国される」
「げっ」
「有栖川様には事の経緯を話してるから、どうするかはその後で決めようね」
………嫌な予感がするぜ。
学園生活中もメールや時々スカイプで会話していた。あいつは『有栖川千尋』を溺愛している。
また軟禁生活とか、絶対に嫌だぞ。
北条先生が出て行ってから、俺はこっそり病室を抜け出した。
そして、自販機の前にしゃがみ込んで「どうしよう」と自販機の下をのぞき込むようにして困ったフリをした。
「君。どうしたの?」
誰かを見舞いに来たらしいサラリーマン風の男が声をかけてきた。
「すごく喉が渇いて、ジュース買いにきたんですけど、小銭を落としちゃって。自販機の下に入っちゃったんです。小銭、それだけしか持って出ていなくて………病室まで戻るのもしんどいし………」
俺は学園のチワワどもの真似をして、ウルウルしながらサラリーマンを見上げた。
「そっそうなんだ。あっ、じゃあおじさんが小銭あげるよ」
「でもぉ」
「返さなくていいから、ジュースくらい奢ってあげるから」
ちょっと頬を赤らめたサラリーマンは、200円を自販機に入れた。
「どれが飲みたいの?」
だが俺はお釣り返却レバーを捻って、落ちてきた200円を取り出した。
「よく考えたら飲みたいジュース、向こうの自販機だった」
俺は200円を手にダッシュした。
「おじさん。ありがとー!」
サラリーマンは唖然として立ち尽くしていた。うう、すまない。おじさん。
200円ゲットだぜ!
公衆電話はっと………お! あったあった。
200円を入れて、覚えている番号をダイヤルした。
「もしもし! 俺、千尋!」
ともだちにシェアしよう!