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千尋と病院1

   【side 千尋】 あの後、俺は伊丹先生の車で北条先生の病院まで連れていかれた。 そのまま入院して検査したけど、やっぱり原因は分からなかった。 「だから、なるようにしかならないんですってば」 「しかし………」 俺は病室で北条先生と話していた。 「だって脳移植なんて、トンデモ手術してんだし。ちょっとくらい副作用あるよ。今回はいろいろ重なったからだし。俺、もう退院していいでしょ?」 あれから二日経ってる。 面会謝絶にされて、ずーっと検査やらなにやらされて、俺はうんざりしていた。 スマホも取り上げられたので、あの後どうなったのかも分からない。すげぇ気になってるんだけど。 「有栖川様は明日帰国される」 「げっ」 「有栖川様には事の経緯を話してるから、どうするかはその後で決めようね」 ………嫌な予感がするぜ。 学園生活中もメールや時々スカイプで会話していた。あいつは『有栖川千尋』を溺愛している。 また軟禁生活とか、絶対に嫌だぞ。 北条先生が出て行ってから、俺はこっそり病室を抜け出した。 そして、自販機の前にしゃがみ込んで「どうしよう」と自販機の下をのぞき込むようにして困ったフリをした。 「君。どうしたの?」 誰かを見舞いに来たらしいサラリーマン風の男が声をかけてきた。 「すごく喉が渇いて、ジュース買いにきたんですけど、小銭を落としちゃって。自販機の下に入っちゃったんです。小銭、それだけしか持って出ていなくて………病室まで戻るのもしんどいし………」 俺は学園のチワワどもの真似をして、ウルウルしながらサラリーマンを見上げた。 「そっそうなんだ。あっ、じゃあおじさんが小銭あげるよ」 「でもぉ」 「返さなくていいから、ジュースくらい奢ってあげるから」 ちょっと頬を赤らめたサラリーマンは、200円を自販機に入れた。 「どれが飲みたいの?」 だが俺はお釣り返却レバーを捻って、落ちてきた200円を取り出した。 「よく考えたら飲みたいジュース、向こうの自販機だった」 俺は200円を手にダッシュした。 「おじさん。ありがとー!」 サラリーマンは唖然として立ち尽くしていた。うう、すまない。おじさん。 200円ゲットだぜ! 公衆電話はっと………お! あったあった。 200円を入れて、覚えている番号をダイヤルした。 「もしもし! 俺、千尋!」

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