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生徒会室と灰色の空2[side 西大路]
【side 西大路】
千尋が病院に連れて行かれるのを見送った後、俺は生徒会室に戻ってあいつを待っていた。
しばらくして、ドアが開いた。
「急に呼び出して何の用?」
「………桜真」
桜真が気怠げな表情で生徒会室に入ってきた。俺は立ち上がり、桜真の前に立つ。
「お前なのか?」
「なんのこと?」
しれっとした態度に苛立ち、俺は桜真の眼鏡を奪った。
「ちょっと! 何するんだよ」
「こんなもの必要ねぇだろ」
これは伊達眼鏡だ。桜真は眼鏡なんて必要ない。そのボサボサの鬘も、分厚い眼鏡も素顔を隠す為のものだ。
「………」
桜真は灰色の美しい瞳で俺を睨んだ。
陽の光の下だと少しブルーがかった灰色で、宝石のように綺麗な瞳をしている。
だが、日が陰った夕暮れの生徒会室では嵐の前の空のような黒に近い暗い灰色だ。
「お前が有栖川千尋を襲わせたのか?」
「あの子、襲われたの?」
「桜真!」
桜真は忌々しそうに俺を見て言った。
「僕は襲わせてなんかいない」
俺は少しほっとした。だが、桜真の次の言葉に目を見開いた。
「ただ噂を流しただけ。今なら有栖川千尋に何をしても親衛隊のせいにできるからチャンスだってね」
「お前ッ!? なんでそんな真似を!?」
「邪魔だったんだよ。あの子。平野を庇うし、蓮も好意を持ってる。千里もだし………正宗、お前も有栖川千尋を気に入ってるだろ。目障りだ」
「桜真!」
「今まで僕が親衛隊をけしかけて、平野や一年生に制裁や嫌がらせをさせていても何も言わなかったお前がどうしたんだよ。そんなに眠り姫が気に入ったの? さっさとヤっちゃえばいいじゃないか」
俺はカッとして言い返した。
「そうじゃない! 今回はやりすぎだ。千尋は病院に運ばれたんだぞ」
桜真はピクリとしたが、「へぇ。大人しくなるか学校辞めちゃうかもね」と言った。
「桜真。なぜこんな事をするんだ? 俺にならいい。他の奴には何もするな」
「正義の味方きどり? お前が?」
「違う。お前、本当はこんな事する奴じゃないだろ」
「昔はね」
桜真は皮肉めいた微笑を浮かべた。
「あの日、なにもかも変わった」
その言葉に俺は凍り付く。
桜真はネクタイを解いて、シャツのボタンを外し始めた。
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