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千尋と南の島2
俺と有栖川父はテラスで昼食を食べた。こんな時にあれだけど、めっちゃ美味しかった。
「ここ南の島だっていうけど、日本とどれくらい離れてんの?」
「少し遠いかな。そんなことは気にしなくていい」
「………」
さっきからのらりくらりとはぐらかされてる。
今日の有栖川父はラフなシャツにコットンのパンツスタイルで髪も無造作に崩していた。いかにも休暇中って感じだ。
相変わらず渋いイケメンだ。有栖川千尋も大人になったらダンディになるのかな? でも母親に瓜二つだしなぁ。
優雅に寛ぐ姿にふと疑問に思った。
「仕事は? 帰らなくてもいいの?」
有栖川父は嬉しそうに笑って答えた。
「当面の仕事はここでもできるよ。半分休暇みたいなものだから、ちーちゃんとゆっくり過ごせるからね」
「げぇ」
俺は嫌そうに舌を出してみせたが、有栖川父は甘ったるい目で愛しげに俺を見ている。
「仕事よりも、ちーちゃんの方が大切だからね。ここには北条ではないが、腕の良い医者も連れて来てる。必要なものは揃っているからね。しばらくはゆっくり過ごそう」
「しばらくって………」
どのくらい? その後は?
いつ日本に帰れんの?
眉をしかめた俺の前に、食後のデザートのアイスが出された。
「あの後、どうなったか気になるんだ。一度、学校に帰らせてよ」
有栖川父が俺の顔を見て、少し低い声で言った。
「千尋を襲った生徒達はもういないよ。パパが遠くにやったからね」
「え………」
「大丈夫。なにも心配はいらない。パパに任せなさい。いいね」
有無を言わさぬ声音で言い放ち、ふっと表情を和らげて微笑んだ。
俺は少し有栖川父を怖く感じた。
今まではベタベタされてウザいとか、キスされた時でさえ、キモいムカつくとしか思わなかったのに。
今の言い方、ちょっとゾクっとした。
俺は心に宿った不安をごまかすようにアイスを食べた。
「あ。美味しい」
「ピスタチオのジェラートだよ。昔から好きだったね」
懐かしそうに話す有栖川父に対して、俺はまた不安になる。
この体は有栖川千尋だ。
けど、中身は山田太郎だ。
どうしても目の前にいるこいつを父親だなんて思えない。
俺の父親はおデコハゲでちょいメタボな猫好きのおっさん、山田一郎だけだ。
でも、有栖川父は俺と本物の千尋を混同してるみたいだ。
意識のないうちに南の島に連れ去ったり、あの生徒達を遠くにやったと言ったり………
有栖川父には権力も財力もある。
だからこそ脳移植なんてトンデモ手術をやらかしたんだ。
その気になれば、一生この島に閉じ込めることもできるだろう。
俺、もう日本に帰れないかも………。
俺は望応学園の友人達を思った。
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