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千尋と南の島3
食後、有栖川父は仕事だと言って書斎へ行った。
俺に申し訳なさそうに「構ってあげられなくてごめんね」と言ってきたけど、「さっさと仕事しろ」と背中を押したら「ちーちゃんツンデレ」と言われた。うげぇ。
今のうちに屋敷の探索をしようと思うが、護衛の男がぴったりくっついてくる。
「あの~、休憩してきていいですよ」
「そんな訳にはいきません」
くそ。ひとりになりたいのにぃ。
何か脱出方法はないか探りたいんだけど。
「ご案内しましょう」と、エスコートされてしまった。
有栖川父の別荘はめっちゃ広かった。
こりゃ今日は半分も回れないな。
「こちらが二階のバスルームです」
「広っ!」
なんか、シンガポールだかの高級ホテルみたいだ。円形のめっちゃ大きなお風呂。
しかも、壁一面ガラスで海が見える。
てゆうか、お風呂何個あるの?
「この島って住んでる人いないの?」
「屋敷の管理をする者だけです。有栖川家に関わりのない人間はいません」
うわぁ。敵陣にいるみたいだ。
「あの。ここまでどうやって来たの? 船とかは?」
「千尋様は眠ったまま、自家用ジェットでいらっしゃいました」
「自家用ジェット!?」
そうだ。有栖川父は雲の上のお金持ちなんだった。
「げぇ。金持ちめ」
伏見さんは俺の言葉に不思議そうな顔をした。
「なに?」
「千尋様だって『お金持ち』でしょう」
少し皮肉っぽく言われた。まぁ、そうなんだろうけど。微妙だ。
「いや、まぁ、そうなのか………うん。なんか、すみません」
「なぜ謝るんです」
伏見さんはクスッと笑ったけど、すぐに無表情の真顔に戻った。
「もうじき夕食のお時間です。このままご入浴を済ませてください。後ほど、雅信様の元へご案内いたします」
「えっ」
「着替えはご用意してありますので。ごゆっくり」
伏見さんはさっさと出ていってしまった。
窓から夕暮れの海が見える。
四方に置かれたキャンドルに火が灯っていた。湯船には湯が張ってあり、花びらが浮いてた。
うわぁ、女子が喜びそうだ。
最初から用意されてたみたいだ。
たぶん、時間を計算して最後にバスルームへ案内したんだろう。なんか嫌だな。
足枷は付けられちゃいないけど、自由が無いって感じ。
「………」
こんなとこで悩んでてもどうにもなんないか。せっかくだ。俺は服を脱いで、この贅沢な風呂を堪能することにした。
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