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千尋と南の島4[side 伏見]
【side 伏見】
有栖川千尋の護衛を依頼された時、正直不満だった。
「ガキの子守り?」
「ガキっていうな。有栖川家のひとり息子だぞ」
有栖川家の護衛を担当してるこいつは昔からの知り合いだ。それで俺を指名してきたらしい。
「お前のとこの若いのをつけりゃいいだろ? なんで俺が」
「優秀だからだ」
「お前は?」
「私は雅信様の護衛だ」
こいつ、穂高冬夜(ほだか とうや)は、有栖川雅信に忠誠を誓っている。まるで忠犬だ。
「千尋様は全寮制の学園に入っておられたのだが、少しトラブルがあって……」
金持ちボンボンの悪ガキか。
「反抗期だか、粋がったガキか?」
「違う。全寮制の男子校なんだが………良くない生徒に襲われかけたらしい。この件は他言は無用だ。決して口外するな」
ガキのケンカか。くだらない。
子供のお守りなんざ、するつもりは無い。どう断ろうか思案していると、
「千尋様だ」
有栖川千尋の写真を見せられた。
「………!」
整った顔立ち。潤んだ黒い瞳。うっすら色付いた唇。
驚いた。これが女なら絶世の美少女だ。いや、これだけ美形だと男でも構わない。
「………襲われたって言ったな。レイプか」
「未遂だ」
閉ざされた男子校で、精力有り余った奴らがわんさかいるんだろう。
有栖川千尋は蜜みたいな存在だったに違いない。
「千尋様は病院にいる。雅信様は千尋様を病院から別荘のある島に連れて行かれるそうだ。部外者はいない。あんな事があった後だしな」
それに………と、痛ましげに続けた。
「四年前、奥様が亡くなられた事故で千尋様も生死を彷徨われた。三年間の昏睡状態から奇跡的に目覚められたんだ。今回、発作を起こされた為、病院で検査入院中なんだ。お前には千尋様のお体の事も注意して見ていてほしい」
「………」
俺は手にした有栖川千尋の写真を見つめた。
「いいだろう。引き受けよう」
長い仕事を終えて、ちょうど休暇中だったこともあるが、一度この少年に会ってみたいと思った。
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