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千尋と南の島5[side 伏見]
有栖川千尋は薬で眠ったまま、島に連れてこられた。
眠る姿も美しかったし、有栖川雅信の腕に抱かれた千尋は眠り姫みたいだと思った。
目覚めれば、どんな声で話すのだろうか。俺は少し楽しみにしていた。
島に着いてから半日。目覚めた千尋が寝室のドアを勢いよく開けて飛び出してきた。
向かいの部屋に待機していた俺はインカムでコントロールルームに連絡した。
「眠り姫がお目覚めだ」
『ゲートに向かっています』
「開けろ」
ゲートを出てもあるのは砂浜だけだ。
この島のすべてが有栖川家のものだ。ここは有栖川雅信のテリトリーで、千尋を傷付けるような輩は存在しない。
俺は有栖川千尋を追って屋敷を出た。
砂浜で立ち尽くしている有栖川千尋に声をかけた。千尋は驚いて振り返った。
「!」
青い空と白い砂浜、海をバックに振り返った少年はまるで映画のワンシーンのように美しかった。
少し不安げな表情が妙にそそった。自分はゲイではないが、この少年なら余裕で抱けるな。
いかん。仕事だ。
「そろそろ戻りましょう」
「あ、あんた誰?」
俺は仕事用の顔と声で自己紹介をした。
「千尋様の護衛をさせていただきます。伏見伊織です」
そして、そっと背に触れて屋敷へと連れ帰った。
………細いな。だが、バランスの良い体つきをしている。
貧相な印象は無く、猫のようにしなやかだ。少年と青年の中間の中性的な魅力を持っている。
ああ、やばいな。これは俺でもムラっとくる。
俺は自他共に認める女好きだ。仕事は優秀だが、そこが欠点だと言われる。
有栖川千尋は不安げにチラチラと俺を伺うように見ていて、その上目遣いがたまらないと思った。
これで女なら最高なのに。
いや、ガキ相手に何を考えてるんだか。まだ17だろ。
俺は愛想笑いで、有栖川千尋を父親の元に連れて行った。
学校でレイプされかけたと聞いていたので父親に泣きつくかと思ったら、千尋は逆に学校に戻りたいと言った。
どうなったか知りたい。守られる必要はない、と。
「俺、男なんだし。あれくらい平気だから」
「パパは平気じゃない。もうその話は終わりだ。二度と危険な目に合わせるつもりはないからね。しばらくはここで過ごすんだ。いいね?」
有栖川雅信にそう言われ、千尋は少し拗ねたような顔でアイスを食べていた。
想像してたのとは違うな。
俺は少し下がって立ち、聞こえてくる会話に驚いていた。
もっと弱々しい美少年かと思ったが、気が強いみたいだ。だが、逆に納得もした。男はこうゆう相手をねじ伏せる事に快感を覚える奴が多い。
本能ってヤツだ。
反抗し抵抗する千尋を泣かせるのは興奮するだろうな………いかんいかん。仕事だ。
俺は顔を引き締め直した。
有栖川千尋の世話係は楽しめそうだと密かに思った。
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