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園田と鳴海奈留美4[side園田]

  僕は鳴海さんを連れて応接室に戻った。 「どうした、園田」 「あ、さっきの………」 「情報提供者です」 僕は御影委員長に向かってそう告げた。 「はぁ?」 「書記様。書記様も有栖川くんのこと、心配ですよね?」 「うん。千尋は今どうしてるのか、知っているなら教えてほしい」 書記様は憂いを帯びた茶色い瞳で鳴海さんを見つめた。 鳴海さんが小さな声で「はぅ」と漏らしたのを僕は聞き逃さなかった。 「………ご当主の雅信様が有栖川家の所有する南の島に連れて行かれました」 「南の島ぁ!?」と、美村くんが驚いた声を出した。 「はい。療養を兼ねて、しばらく別荘で過ごされるそうです。その後は雅信様のお仕事の都合で海外に移住される予定です。望応学園には戻られません。日本にも数年は戻って来られないでしょう。雅信様は千尋様を手元に置かれるつもりです」 「千尋の意思は?」 今度は委員長が聞いた。 「千尋様は事故の後に目覚められてから万年反抗期でございます。学園に戻りたがっておられると思います」 鳴海さんは委員長を見て答えた。 「あんなことになったのは俺の責任だ。千尋の父親に会って謝罪したい」と、高槻先輩。 「それはおやめになった方がよろしいかと………雅信様は静かに、でも最高潮にお怒りで、千尋様を襲った生徒を家族もろとも追い込みをかけられましたから」 「やっぱり。有栖川家の圧力で退学にしたのか」 「どうにか有栖川くんに会えない?」 僕は鳴海さんにお願いしてみる。僕の勘だけど、この人が味方についてくれたら、何か進展しそうな気がするんだ。 「………」 「有栖川くんのお父さんもすごい人なんだと思うけど、ここにいるみんなも負けていないと思うよ」 僕と美村くんはそこそこのお金持ちだけど。御影家、南方家、高槻家は地位も権力もある家柄だ。親の七光りなんて当てにしない人達だけど、この際利用したらいいと思う。 鳴海さんは何か考えるようにみんなの顔を見ていたけど……… 「条件があります」 「何だ?」 「私が皆様と千尋様を引き合わせるような真似をすれば、雅信様のお怒りを買います。もちろん仕事はクビになりますし、再就職も厳しいでしょう。その時は雇っていただけますか?」 「かまわねぇよ。メイドの一人くらい雇ってやる」 「いえ。あなたでなくて、王子さ………いえ、南方様。」 「俺?」 「はい。南方家で雇っていただけないでしょうか?」 うわぁ。鳴海さん。欲望に忠実な人だ。 「わかった。その場合は責任を持ってうちで引き受けるよ」 「! ありがとうございます。では、こちらに一筆書いていただけますか? いえ、あなたのような方がいい加減な事を言うとは思っておりませんが、念の為です」 どこから出したのか、鳴海さんは白紙の用紙を差出して南方家でメイドとして雇う旨を書いてもらっていた。 朱肉まで持っていて、サインの横に拇印を押してもらっていた。 「ありがとうございます」 鳴海さんは変わらず無表情だが、いそいそウキウキと用紙を胸元に仕舞った。 「これで私も千尋様奪還チームの一員という事でよろしいですね」 「奪還て、大げさな」と、美村君。 「雅信様の溺愛っぷりをご存じないでしょうから。入学前はGPS機能付きの足枷を付けられた事もありましたし、今回は千尋様を薬で眠らせて強引に連れてゆかれましたからね」 相当なヤンデレだ。ぜひ見てみた………じゃなくて、有栖川くんが心配だ。 「皆さん。覚悟はよろしいでしょうか?」 「ああ」 「いいよぉ」 「構わない。もう一度、千尋に会いたい」 「面白くなってきたじゃねぇか」 鳴海さんはクールな顔でニヤッと笑った。ちょっと怖い笑顔だ。 映画『キ○グスマン』に出てきた義足のアサシンみたいだ。 「では、荷造りしてまいります」 くるりと回れ右して、鳴海さんは応接室を出て行った。 それから30分もしないうちに、鳴海さんはスーツケースと黒のスポーツバッグを持って下りてきた。 「な、鳴海さん!? どこに行くんですか!?」 驚いた他のメイドさん達が、慌てて鳴海さんに駆け寄ってきた。 「はい。南方様に引き抜かれまして、しばらくあちらでお仕事させていただくことになりました」 「え、え!? でも、ここは………私達はどうなるんです!?」 「鳴海さんがいないと困ります!」 「お試し採用ですので、また戻ってくるかもしれませんし」 その騒ぎを聞き付けて、さっきの不愛想な執事さんが駆け寄ってきた。 「何の騒ぎだ」 「鳴海さんが………」 「私、しばらく休暇をいただき、こちらの南方様の元でお仕事させていただきます」 「なっ!? そんな勝手な真似は許されない!!」 「たかがメイド一人、雅信様も気になさらないでしょう」 「たかがメイドじゃないだろう。君が抜けると………」 「お静かに」 鳴海さんのひと声でシーンとなった。 な、鳴海さんって何者!? 「改めてご連絡させていただきます。それでは」 きっぱり告げると執事さんに背を向けて、さくさく歩いて出て行ってしまった。 みんな唖然とその後ろ姿を見ていた。僕は慌てて追いかける。 「お前。随分、おもしろいメイドだな」 御影委員長が笑った。 書記様は少し不安そうだ。 美村くんはニヤニヤしてて、高槻先輩は「いい加減すぎる」と苦い顔をしていた。 「鳴海さんて腐女子以外に何者なの?」 僕はコソッと聞いてみた。 鳴海さんは「強いて言うならば………私、ハイパーメイドなんですの」とだけ答えた。

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