279 / 306
千尋と優雅な拘束の日々2
俺は顔を洗って、どうにか寝癖を直してから洗面所を出た。
「もっと可愛くなった」
有栖川父が嬉しそうに言って両手を広げてきたので、ひょいと逃げた。
「可愛いって言うな」
「ちーちゃん。パパの機嫌を損ねると日本に帰れなくなっちゃうよ?」
「う………」
痛いところを突かれて、俺は大人しく奴の腕の中に納まった。
「いい子だ」
ギュッとハグされて、頬にキスされた。
うんざりだけど、なんだか慣れてきちまった。
「ほら。着替えて、食事にしよう」
有栖川父は俺と交代で洗面所に入っていった。
俺はベッドの上に用意されていた服に着替えることにした。
ゆったりとした白のワイドパンツに薄いベージュのノースリーブのカットソーだ。
着心地はいいけど、なんとゆうか女の子みたいだ。
「よく似合ってるよ」
洗面所から戻ってきた有栖川父が満足そうに微笑んだ。俺は着せ替え人形じゃないっつーの。
有栖川父は昨日みたいなラフな服に着替えた。髪も自然に流していて、やっぱりダンディな男前だった。ムカつく。
俺はメッシュ素材のスリッポンを履いて、有栖川父と一緒に寝室を出た。
今日は屋内で遅い朝兼昼食を食べた。
大理石のテーブルにいろんな料理が並べられていて、好きなだけ食べていいよって言われた。
自分で取ろうとしたらウェイターらしき人に止められた。言えば取り分けてくれるみたい。
………こうゆうの息苦しい。女の子ならお姫様扱いで嬉しいんだろうけど。
「いつ日本に帰れる?」
「ここには療養と休暇の為に来ている。焦らなくていいよ。ゆっくり過ごそう」
「そうじゃなくて………」
有栖川父は立ち上がって、俺の頭にキスを落とした。
「ごめんね。パパは仕事だ。お先に失礼するよ。伏見に遊んでもらいなさい」
「ちょっと!」
まるきり小学生の子供扱いだ。ムッとして言い返そうとしたが、有栖川父は会話を終わらせて、さっさと書斎に行ってしまった。
「千尋様。何をして『遊び』ましょうか?」
そして、いつの間にか背後に控えていた伏見さんがしれっとした顔で言った。
………最悪。
俺はため息を吐いてコーヒーを飲んだ。
ともだちにシェアしよう!