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千尋と優雅な拘束の日々3

俺は伏見さんに昨日はまわりきれなかった屋敷の案内をしてもらった。 「おお!」 プロジェクターで映画を見たら、ちょっとミニシアター気分になるくらいのでっかいスクリーンのある部屋だった。 「これでアメコミとかホラー映画見たら迫力あるなぁ」 「映画がお好きなんですか?」 「うん。けっこう好きです」 小林の影響だけど。 ………小林。 日本にいた時、夏フェスのチケット取ったってメールがきてた。一緒に行くって約束したんだ。 八月には日本に帰れるといいんだけど。 「………」 黙り込んだおれを伏見さんがじっと見ていた。 それから、おやつにパンケーキを食べて屋敷や庭をブラブラした。 広いなぁ。プールもあるし。 望応学園のみんながいたら、めっちゃ遊べたかもなぁ。 つい先日まで学園生活を送っていたのに、すごく昔の事みたいだ。 「はぁ………」 俺はため息をついて、プールサイドをブラブラ歩いた。 夕食はテラスで有栖川父と食べた。 この島に来てまだ二日だけど、早くも心が折れそうだった。 山田として、あくせく生きてきた期間の方が長いんだ。こんな場所で優雅に過ごすなんて、セレブな過ごし方は合わない。 ギャルと一緒だったらまた別の楽しみもあっただろうけど、目の前には有栖川父だ。 日中は伏見さんが張り付いてる。 暑いのに黒のスーツで汗ひとつかかない、ターミネーターみたいな奴だ。 正直、息が詰まりそうだ。また俺はため息をついた。 「デザートは中で食べよう」 有栖川父は俺の手を引いて立ち上がらせた。 どこまで歩くんだろうと思ったら、昼間のでっかいスクリーンのある部屋に連れていかれた。 ソファに座らされて、隣に座った有栖川父が聞いてきた。 「ちーちゃんは映画が好きだよね」 「えっ」 アメコミ映画が用意されていて、「どれが見たい?」と聞かれた。劇場公開前の映画もあった。 あ! 伏見さんだな。 今日の俺はテンション低めだった。伏見さんが何か言ったのかもしれない。 「じゃあ………これ」 俺が劇場公開前のアメコミ映画を選ぶと、有栖川父は嬉しそうに笑った。 俺は………何というか、少し申し訳ない気持ちになった。 脳移植なんてトンデモ手術をやらかしたり、こんな場所に連れてきたり、ベタベタしてきたり……… 正直ムカつくけど、こいつは有栖川千尋の父親なんだ。 死んでしまった最愛の奥さんに瓜二つの息子を溺愛している。 愛情表現が歪みまくっているが、それも仕方ないのかもしれない。 でも俺は有栖川父に反抗しっぱなしだ。 こいつにとっては唯一の愛する家族なんだろう。歪みまくってるけど。 「………」 俺は有栖川父を見た。 有栖川父は少し気遣うように俺を見つめている。 こいつはアメコミ映画なんか興味ないはずだ。俺が「これでアメコミ映画見たい」って言ったから用意させたんだろう。 劇場公開前のものまで。金持ちならではだとは思うけど。 俺を喜ばせたいんだろうか………。 「ありがとう」 「!!………ちーちゃん!!」 「えっ!?」 ボソッと礼を言ったら、有栖川父はウルウルと涙で潤んだ瞳になった。 マジかよ。泣くなよ。 そして、ぎゅっと俺を抱きしめる。 「他に見たい映画があれば言ってごらん。すぐに用意させるよ。一緒に見よう」 そして俺と有栖川父はデザートのアイスを食べながら映画を見た。 でっかいスクリーンで見る映画は、思った通り大迫力だった。

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