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千尋と優雅な拘束の日々4[side 有栖川雅信]

【side 有栖川雅信】 ちらりと横顔を盗み見れば、千尋は夢中で映画を観ていた。 アクションやCG映像に力を入れた中身は薄い映画のようで、正直なところ私には良さが分からなかったが、千尋が楽しめたのなら良かった。 千尋がこの島で過ごす事に不本意なのも、日本に帰りたがっているのも分かっている。 それでも、千尋には私の側で笑顔でいて欲しい。 今日、伏見に千尋の元気がないようだと報告を受けた。 そして大画面で映画を観たがっていたとも聞いて、退院して屋敷で暮らしていた頃もよく映画を観ていた事を思い出した。 すぐに千尋の好きそうな映画を用意させた。 千尋は照れたように俯いて「ありがとう」と小さく呟いた。その仕草が可愛くて、思わず涙目になってしまった。 ゆっくりでいい。 もっと一緒に過ごす時間を増やして、私を受け入れてほしい。 『山田太郎』だった頃の事は忘れて、生まれ変わった『千尋』になってほしい。 「面白かった!」 エンドロールが終わり、最後のおまけ映像まで観て千尋が言った。 「やっぱり大迫力だなぁ」 「そう。良かった」 少し興奮した様子の千尋を見て、笑みが溢れる。幼さの残る可愛いらしい表情だ。 「まだ観たい?」 「………えっと」 「いいよ。ほら、選んでごらん」 日中、退屈していたのだろう。 千尋はまた別の映画を選んだ。 ………今度は低俗なホラー映画だ。 私はため息を吐きたくなったが、ぐっと堪えた。 千尋は映像に釘付けだ。こんなに可愛い表情を見せてくれるのだから、どんな低俗な映画でも私は付き合おうと思う。 「うわッ!?」 千尋がビクッと跳ねた。 そして照れたようにこっちを見て笑った。 「今のびびったぁ。有栖川父もびっくりしたでしょ?」 ろくに映画は観ずに、千尋の顔を盗み見ていたのだが 「ああ。驚いたよ」 と答えると、千尋はニコッと笑った。 いつか、またパパと呼んでほしい。 再び映画に熱中する千尋の横顔を、私は愛情と切なさを込めた眼差しで見つめ続けた。

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