284 / 306
鳴海と風と木の詩2[side園田]
「とりあえず、一旦学園に戻って全員の外出届けの手続きしねぇとな。まぁ、風紀の特権でなんとかなる」
そうなんだよ。望応学園では教師よりも上位の生徒の方が力があるんだ。まさにBL学園だよ。
「それで、いつ出発するんです?」
「明日だ」
「明日!?」
早っ!? 思わず聞き返してしまう。
「グズグズしてたら、姫がまた遠くへ攫われちまうかもしれねぇだろ」
委員長、男前だ。その時、委員長のうちのメイドさんがお茶とお菓子を持って入ってきた。
「失礼いたします」
ローテーブルの上にカップを並べて、顔をあげて……
「!?」
鳴海さんを見て、びっくりした顔になった。
「な! 鳴海さん!?」
「はい」
「なぜここに!?」
メイドさんはアワアワしてる。
僕は「鳴海さんって有名人なの?」と、気になってたことを聞いてみた。
「はい! 鳴海さんは日本一のメイドです。全日本メイド協会チャンピオンシップ三年連続優秀で殿堂入りされているんです」
メイドさんはキラキラ顔で続けた。
「あの使用人が続かない事で有名な春日野道家のクソガ……坊っちゃまを更生させ、メイドに手を出しまくるメイドキラーの日本橋家のエロ旦那……ご当主を精神的去勢に調教……じゃなくて、ご指導されたり……地獄のいびりの西九条家のお局鬼畜メイドを引退に追い込んだり……他にも色々と伝説があるんですよ。私達使用人を悩ます問題を解決してまわる、いわばメリーポピンズみたいな方なんです」
メイドさんは興奮したように一気に言い切った。
「有栖川家の隠れコミュ障の新米執事を一人前にしたのも鳴海さんです。あ、まさか今度はこちらに? ……坊っちゃま。何かやらかしたんですか!?」
「はぁ!? なにもしてねぇよ」
「いえ。有栖川家の千尋様のご学友として、休学中の千尋様の身を案じてくださってるんです。今日は千尋様のお見舞いにサプライズはどうかと、皆様と計画中なんです。サプライズですので、どうか内密に」
鳴海さんが静かに話した。
「サプライズですね! 分かりました。秘密は決して漏らしません!」
メイドさんはキリッとした顔をして、部屋を出て行った。
「鳴海さんって、すごいんだね」
「いえ。それほどでも」と、鳴海さんはクールに返した。
委員長は「面白い奴だなぁ」と笑ってる。他のみんなは唖然としてる感じだ。
「それでは、わたしは明日の準備をしてまいります」
その空気を動かすように鳴海さんがノートパソコンをパタンと閉じて言った。
「あ。鳴海さん、今日はどこに帰るの?」
鳴海さん、有栖川家を出てきちゃってるんだ。泊まるとことか、あるのかな。
「大丈夫です。友人に連絡して迎えに来ていただきますので」
テキパキとノートパソコンをバッグに納めながら答えた。
「俺らは学園へ戻るぞ。明日の朝一に学園を出る。鳴海、9時にここに来い」
「かしこまりました」
「あ。僕、見送ります」
立ち上がった鳴海さんに僕はついて行く。この人には聞きたいこといっぱいだよ。委員長たちは部屋であれこれ話しを続けた。
僕は鳴海さんと一緒に玄関を出て正門までの長い道を歩く。
「鳴海さんって不思議な人なんだね。なんかすごいメイドさんみたいだし」
歩きながら話してたら、鳴海さんはササッと周囲を見回し、人がいないのを確認した。
「ホモが好き」
「えっ!?」
唐突なセリフに僕はビクッとした。
ともだちにシェアしよう!