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鳴海と『風と木の詩』3[side 園田]

ちょっとびっくりして無言でいると、鳴海さんは淡々と話し始めた。 「私が子供の頃、叔母の本棚にあった古い少女漫画を読んだんです」 「はぁ」 「『王家の紋章』でした」 「あ。知ってます。読んだことないけど」 「ザ・少女漫画というタッチにハマりまして、古本屋で昔の少女漫画を探して集めるようになったんです。そこで出会ってしまいました」 鳴海さんは遠い目をして話し続けた。 「『風と木の詩』に」 「あ! 僕も読みました」 BLの先駆者だ。 「そこから『ポーの一族』『夢の碑』とハマり、BL趣味へと進んでいったのです。深い心理描写、美しい絵、少女漫画だというのに見てはいけないものを見たようなエロティックさ」 僕はうんうんと頷きながら聞いていた。 「ある日、部屋でJUNEを読んでいた時に姉が部屋に入ってきました。そして言われたのです」 ───あんた、こんな本読んでるの?気持ち悪い。 「えっ」 「『こんな本読んでる子は友達も彼氏もできないし、イジメられちゃうよ。さっさと捨てるの!』そう言って、私が手にしていたJUNEを奪いました。姉はいわゆるリア充という奴でして、私は大人しい一匹狼タイプ。前から気は合わなかったのです」 「そうなんだ」 僕も姉がいるけど、BL趣味には理解がある。というか、面白がって人気のアイドルやドラマとかホモ設定にして妄想ネタを一緒に喋ったりもしてた。 「アイドルが好き、映画が好きなど、その他の趣味に比べて『ホモが好き』という事はマイノリティなのです。市民権を得つつありますが、まだ茨の趣味です。例えば、仕事もせず家事手伝いもせず、親のすねをかじりながらアニメを見ていれば『これだからオタクは……働けよ』と思われます。逆に演技の上手いイケメンの役者がテレビで『僕、実は美少女アニメ好きなんです』と言えば、『趣味は個人の自由よね。逆に親近感わいちゃう』と思う人の方が多くなります」 ああ、言われてみればそうかも。 「日陰の趣味を持つからには、人より秀でたものが必要だと思ったのです。ですから、私は非の打ちどころのないメイドになって、姉を見返そうと思いました」 鳴海さんがキリッと言い放った。でも…… 「なんでメイド?」 「メイド服が好きだからです。実生活で常にコスプレが許される職業はメイドくらいでしょう」 鳴海さんはさも当然といった顔で僕を見た。

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