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千尋と水着と伏見さん2[side 伏見]

俺と有栖川父はテラスで朝食を食べた。 「今日も仕事?」 「そうだよ」 「……一日中、退屈だよ。さ……寂しいし」 「ちーちゃん……!」 有栖川父は俺をぎゅーっと抱きしめた。 うげぇ。でも我慢だ。実際、日中はほったらかしだしな。サイボーグみたいな伏見さんに見張られて、ストレスなのは事実だ。 ちょっと寂しそうにして見せたら、日本に帰ろうってならないかな。 「ごめんね。早く終わらせるから」 ちゅ、ちゅ、と頭にキスの雨を降らせる。こいつの言動はいちいちアメリカっぽい。 「いい子だから、伏見に遊んでもらいなさい。この島では好きに過ごしていいからね」 「……はぁい」 返事をして上目使いで見上げれば「ちーちゃん可愛い」と、またぎゅっとされた。 朝食を食べ終えて、有栖川父は書斎に行った。俺はまたぷらぷらと歩いた。相変わらず伏見さんが背後にいる。 でもほんとに退屈だ。一日中、映画を見るしかないかぁ。 「千尋様」 「はい?」 そんな俺に伏見さんがある提案をしてきた。 【side 伏見】 千尋が退屈そうにしていたので、俺は「プールで泳いでみてはどうか」と提案してみた。 ここは南の島だ。年中常夏だ。 優雅に水に浸かっているだけでも気持ちがいいだろう。 ……有栖川千尋の水着姿を見てみたいとも思ったんだが。 なんだこりゃ。 千尋はハーフパンツタイプの水着にTシャツを着ていた。 露出が少ないな。もっとこう、ビキニとか、ぴちぴちのとか無かったのか。 男なんだから乳首くらい見られても平気だろうが。 ───いかん。仕事中だ。 「伏見さん。いっつもスーツで暑くないの?」 千尋が無邪気に聞いてきた。そりゃ暑いさ。だが仕事柄、表情には出ない。 「大丈夫です」 「ふぅん」 千尋はプールサイドで軽く準備体操をしている。その動きが可愛かった。 なんというか、女のようなあざとさが無い分、男だが可愛いんだよな。 「よっしゃ!」 千尋は助走をつけて、掛け声と共にプールに飛び込んだ。 ああ。やっぱりまだガキだ。 俺はため息をついて見ていたが……千尋はぶくぶくと水に沈んでいった。 「千尋様!?」 俺は慌ててジャケットと靴を脱ぎ、プールに飛び込んだ。水中でもがいている千尋を抱きかかえて浮上する。 「ぷあっ!」 「大丈夫ですか!?」 ゲホゲホとむせながら「思ったより深かったぁ! びっくりした~!」と言った。 驚いて目を真ん丸に開いて、ハトが豆鉄砲を喰らったみたいな顔をしている。思わず笑ってしまった。 千尋もアハハッと笑った。屈託のない笑顔だった。 「水深が違うんですよ。こちらなら浅いですから」 広いプールは1m~3mと徐々に深くなっている。千尋は一番深い場所に飛び込んでしまったんだ。 華奢な体を抱きかかえたまま、浅瀬へ移動した。 ……抱き心地いいな。おい。 男だが華奢で、猫のように柔らかな体つきをしている。肌もすべらかだ。濡れた前髪越しの黒い瞳にぞくりとする。 俺は千尋を抱き上げて、プールサイドのチェアに座らせた。メイドが慌ててバスタオルを持ってきた。 「すまない」 スーツがびしょ濡れだ。俺はシャツを脱いで御座なりに体を拭いた。 「すげぇ! 伏見さんもハリウッドだ」 「?」 タオルを頭からかぶった千尋が俺を見上げて嬉しそうに言った。 ……なんだこの可愛い生き物は。

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