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千尋と千幸2
昼食の時間になっても有栖川父は書斎から出てこなかった。お昼は食べないつもりらしい。
「………」
昨夜、言い過ぎちゃったかなぁ。伏見さんの話を聞いて、ちょっと考えていた。
ずっと奥さん一筋で生きてきて、その最愛の女性を失った。有栖川千尋は亡き妻に生き写しだ。
その顔で、俺はあれこれ言ってしまったんだよね。
「ねぇ。これ部屋に運んでもいい?」
俺は壁際に立ってるメイドさんに声をかけた。
俺は有栖川父が篭ってる書斎の扉をノックして部屋に入った。
「ちーちゃん!? どうしたの?」
書類を見てた有栖川父が顔を上げて、驚いたように言った。
「や。ちょっとはご飯食べた方がいいんじゃないかと思って」
デスクは書類の山だ。高級な応接セットみたいなテーブルにランチを置いてもらった。自分で運ぶって言ったけど、あっさり却下されたんだよね。
「俺もここで食べていい?」
「いいよ」
「ふたりにしてもらえる?」
俺の言葉に有栖川父は穂高さんを下がらせた。扉が閉まり、俺と有栖川父だけになった。
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