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鳴海とマル秘作戦2

【side 千尋】 「……ん~」 今日も有栖川父と一緒のベッドで目覚めた。 なんか慣れてきちゃったっぽいんだけど、やばいかな。 「おはよう。ちーちゃん」 「……はよ」 俺は伸びをして、大あくびだ。 有栖川父はクスクス笑いながら、俺の頭を撫でる。 また眠くなりそうだったので、俺は起き上がって洗面所に向かった。 顔を洗って着替えてから、朝食はテラスで食べた。 今朝はベトナムのフォーみたいなやつ。あっさり味で美味しかった。俺、パクチー好きなんだよね。 俺は小皿のパクチーをドサッとかけて、有栖川父に笑われたのだった。 【side 有栖川雅信】 今朝は穏やかな気持ちで目覚めた。 千尋は私の事を避けずに隣にいた。それだけで心が温かいもので満たされるようだ。 だが……朝食のフォーに千尋がパクチーをいれて食べているのを見て思い出す。 本物の千尋はパクチーは苦手だった。 アクション映画よりも海外の長編アニメ映画が好きだった。他にもいろいろ……。 事故の時、千尋は十三歳だった。目覚めた時は十六歳だ。 だから少し趣味や性格が変わったのだと思えていた。反抗期で可愛いとさえ思う。 だが、頭の奥では分かっている。 この子は千尋であって千尋ではない。 その事実を受け入れていたつもりが、勘違いをしてしまいそうになる。 千尋の側に居るのに、少し寂しく感じた。 この手術を決行させたのは私だ。 なにより彼の方が大変だっただろう。 他人の体で生きなくてはいけないのだから。 私は彼に無理をさせ続けたのだろう。 生まれ変わって千尋になってほしいと願っていた。 私の息子、愛する妻の忘れ形見の千尋として生きて欲しい。変わってほしいと。 ……四年だ。あの事故から。 じっと千尋を見つめていると、千尋が顔を上げてこちらを見た。 「なに?」 「美味しそうに食べるなぁと思ってね」 微笑んで言うと、千尋が笑った。 「美味しいよ」 言葉遣いや行動は昔の千尋とは違う。 けれど笑うと、思い出の中の千尋と同じだ。千幸によく似た綺麗な笑顔だ。 それに優しい。 向き合わなくてはいけないのかもしれない。 彼は千尋の肉体で生きることを受け入れている。私の事も受け入れようとしてくれている。 彼に千尋や千幸を重ねて、私の思うようになって欲しいと願うことはやめるべきだろう。 この千尋との新しい関係を受け入れるべきかもしれない。

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