303 / 306
鳴海とマル秘作戦3[side 鳴海]
【side 鳴海】
さぁイベントのスタートです。
島に着いた我々はクルーザーを降り、お屋敷を目指す。
この入り江から別荘まで徒歩25分。園田様はへとへとです。南方様は意外と体力あるようで……いいですね。頼れる王子様。
御影様達は私が教えたルートで千尋様の部屋を目指します。
さて。
「よろしいですか? 園田様」
「はぁ……ちょっと待って。水飲ませて……」
私はバッグから水を出して園田様に渡しながら「もう少し体力をつけられた方が」と言うと「いいの。僕は妄想専門だから」だそうです。
馬鹿な。体力が無ければBLイベントにエンカウントできませんよ。徹夜でBLサイトを読み漁るのにも体力は必要です。
「これは現実ですよ」
「分かってるよ」
園田様、目がキラキラ。
王子様は憂い顔です。
大きなゲートの前に立つと、監視カメラがこちらを向きました。
「こちらに気付きましたね」
「よしっ」
園田様が勢いよくインターフォンを鳴らして、
「こんにちはー! 有栖川千尋君の同級生の園田です。お見舞いに来ました! 暑いです! 入れてください。熱中症で死んじゃいます!」
大きな声で言いました。
……ちょっと残念な子みたいです。
「ここで倒れちゃったら、有栖川君悲しむと思うなぁ。冷たいジュースが飲みたいですー! あっ。鳴海さんも一緒ですよー! 怪しくないですから。」
『………』
少しして『そこでお待ちください』と無機質な声がした。
私達はお屋敷の中の応接室に通されました。さて、どうしましょうかね。計画的なようでいて無計画な私。
ノックの音がして、この別荘の若いメイドが冷たいアイスティーを運んできました。私を見て「あ、鳴海さん! どうなさったんですか?」と、驚いた顔で聞いてきました。
「こちらのお二人は千尋様のご学友で、千尋様の事を非常に心配されていまして。私は胸を打たれまして、勝手な事とは思いつつもお手伝いさせていただいたのです」
「あ、そうなんですね! 千尋様、喜ばれますよ!」
「千尋は元気なの?」
王子様が憂い顔でメイドの顔を見つめて聞きました。メイドは頬を赤らめました。やだ王子様、天然たらし。
「あ、お元気です。ただ、ずっと日本に帰りたがっておられて……ですから、ご学友の方が会いに来てくださった事を知れば喜ばれますよ!」
若いメイドの言葉に王子様はほっとしたように微笑みました。若いメイドはますます赤くなっちゃって。
べらべらと千尋様情報をしゃべっちゃうし。こうして知らず知らず味方を作るのが王子様スキル。さすがです。
「穂高さんは? 少しお話したいのですが。」
「あ、はい。お伝えします」
「それから、『あ』って言う癖、直しましょうね」
「あ……あ、じゃないです。申し訳ありません」
今度は青くなって慌てた若いメイドに、にっこり笑って伝えました。
「可愛らしい癖で、私は好きですよ。でも『あ』って言う癖が無いと、スマートで素敵なメイドに見えますよ」
「……! はい!」
若いメイドは笑顔で部屋を出て行きました。可愛い子です。
「鳴海さんって、そんな風にも笑えるんだね」と、園田様。失礼な。
「一人一人、育て方は違うんですよ。褒めて育てるも、スパルタで育てるも、相手の気質次第です。彼女は優しく導いてあげると能力が伸びるタイプですね」
「鳴海さんって、ほんとにスーパーメイドなんだね」
「それほどでも」
その時、ノックも無く部屋のドアが開きました。
ともだちにシェアしよう!