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第3話
強く風が吹いて、自分の黒髪が風に舞い視界を遮る。そのまま一気に暗くなった視界に思わず目を閉じてーーーー、次に目を開ければ見慣れた天井だった。
体を起こし、部屋全体を見回すと、自分が横になっていた寝台は部屋の中央に置かれ、周りは見たことのない機器や、透明な管が壁伝いを走って奥へと消えていた。
冷静に鑑みれば、普通の部屋じゃないことくらいわかった筈なのに。
「ーーーー夢から覚めたら、はしる…?」
夢で会った湊の言葉を呟き、寝台から放り出していた足を床につけた。ひんやりとした空気が足元を抜けて、一枚の扉に続いている。
「ーーーー…どう、すれば」
どうするべきなのか、わからない。あの湊に、お前は悪い奴なのかなど聞いて良いはずがないだろう。
それならば、俺が今するべき行動はこの部屋から出る。ただそれだけのような気がした。
すこしだけふらつく足を引きずるように扉を開け、階段をゆっくり上がる。
湿った土の匂いが上からおりてきて、足を止めた。
耳をすませても、雨の音はしない。俺のいた山に雨は滅多に降らなかった。降らせる為の神はいたが、あの場所は元来人は長く住めない。あの山の麓に暮らしていた人間たちは、どちらにせよいずれ滅んでいた。
「…外、じゃないな」
最大限に警戒しつつ、ゆっくりと階段を上がる。人ひとり通るので精一杯な狭さの階段は、少しばかりざらりとした感触がした。
「……」
階段の先にあった扉を開き、随分とひらけた場所に出てからホッと息を吐く。
確認するように目線を上げれば、煌びやかで豪奢な装飾が天井から吊るされている。初めて見るそれは、キラキラと光を放ち、僅かに揺れていた。
天井から視線を下に落とし、視界に入った長椅子のようなものに近づくと、カツン、と背後から音が聴こえて
「おはよう、温羅」
振り向いた先には湊が立っている。
笑う目元は、よく似ている。ならやっぱりあちらの湊は、いま目の前にいるこの「湊」と同じなのだろう。
同じあり、違うもの。
違うけれど、同じもの。
「ーーーー湊」
「四日目の朝の気分はどうかな?」
いたって普通の湊だ。それでも僅かに警戒したまま、大丈夫だと答えた。
四日目の、朝。そんなに長い時間眠っていたのかと湊を見据えながら思考を巡らせた。
何を考えているのかわからない男だ。もしかしたら、あの夢の湊の事も知っているのだろうか。
「そう言えば、昨日は食事もとらなかったからフラフラだろう。有り合わせで構わないなら今から作るよ」
「……いや、…すこし、外を見たいんだ」
外の景色が今どうなっているのか知りたいのもあった。でもそれよりもなぜか逃げ道を知っておかなければいけないような気がしたのだ。
今目の前にいる湊は紛れもなく命の恩人の筈だ。そうでなければ、俺は十五年という短い眠りで起きるはずがない。
それでも、知りたかった。
あの夢の湊を、そして、今目の前にいるこの男の正体を。
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