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第6話
窓を開き、おもむろに手を伸ばすとポタリと指先に雫が落ちた。
雨かと思えば、そうでもなく。確認する様に指先の雫を見れば、きらきらと何かが光っていた。
「……父様…?」
「残念ながら、違います」
背後から響いた声音に、ゆっくりと振り返る。
そこには、赤い髪の鬼が立っていた。ツノがあるわけでもない。首をすっぽりと覆うコートを着ていたけれど、雰囲気でわかる。肩にかかる程度に伸びた赤い髪の隙間から見える左耳には、金色の長い耳飾りが揺れていた。
かなり背の高い、その鬼はニコリと笑う。
「貴方でしょう。俺を呼んだのは」
「ーーー俺、が?」
「違うんですか?」
「いや…」
違わない、と思う。小さく答えれば、そうですかと男が寝台に腰掛けた。
「それで?用件はなんですか?」
「ーーーー…刀を、」
「刀」
「刀を、借りたい」
「…俺の刀で人間は斬れませんよ?」
「いや、」
斬るのは、人じゃない。
そう言おうとして、口を閉じた。
斬る?誰を。そもそもどうして刀を探すんだ。湊が言ったから?
なら、湊は何のために、刀を
「………なぜ、刀を欲するんですか?見たところ、貴方はあの男の子でしょう?自らの手で殺すくらい訳ないと思いますが」
はぁ、とため息混じりに足を組んで男が理解できないと言いたげに俺を見た。だけど、返す言葉が見当たらない。
「ーーー仕方ありませんね。一度だけなら貴方の呼び出しに応じましょう。貴方には俺の刀は扱えないでしょうから。誰かを手にかけたい、ただその一度きり、俺の名を呼んでください。代わりに手を下しましょう。ただし、一度だけですよ。何度も言いますが、軽々しく呼ばないことをお勧めします」
男は立ち上がり、俺の前までくるとまたため息を吐いた。
「音無、と言います」
「ーーーーー…わかった」
頷いて顔を上げれば、音無はもう居なかった。
俺はその場に立ち尽くし、現状を把握するべく思考を巡らせる。
俺を助けた湊と、夢の中の湊。どちらも本当の湊なのだろうか。
人の事は人に、妖の事は妖に。
俺の記憶が正しければ、音無の刀は「妖刀」だ。妖の魂を、斬る刀。
「………」
俺は最初、夢の湊に取り戻したくはないのかと聞いた。その答えは、口づけと刀を探せという言葉だけ。
刀を持つ鬼が答えを持っている、と。
さっきは突然の事にうまく頭が回らなかったが、よくよく考えたら、聞きたいことを聞いていない。
それに俺は、誰かを斬りたいわけじゃない。知りたいんだ。
知り得なかった世界を、人を、七日目のその先を。だから、湊が至極単純に解けると言った俺のこの呪いを解かなくては。
湊の血ではなく、他の方法で。
そこまで考えて、その方法をどうやって探すのか、今身近で知っていそうなのは湊だけだ。
もう、四日目の夜だ。時間はほとんど残っていない。
ならば、本人に聞いた方が早くはないだろうか。
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