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温温庵の仲間たち

なんだかんだで鉄平は居酒屋でのバイトを今も続けていた。 バイトの面接に来る者はいるのだが、「こいつは気に入らない」と、高杉がことごとく追い返すからだ。 約二カ月前。 志狼と高杉が一悶着あった週の金曜日に鉄平が温温庵に出勤してきた時、高杉が複雑そうな顔をしていた。 「高杉さんてば、愛娘が嫁に出て行くみたいな顔しちゃって」と、店長の竹田が笑った。 「うるせぇ!! てめぇは仕事してろ!」 「はいはい」 高杉は竹田に吠えて、改めて鉄平を見た。 「あっ、あの。先日はすみませんでした」 何か言いかけた高杉より先に謝って、鉄平は頭をさげる。 「……いや。俺も殴ったし」 「あんなの全然平気です」 「DV料理人って言われちまったしな」 鉄平は目をまん丸にして、キョトンとした顔をした。 高杉が手が出るのも、足が出るのも、いつものことだ。 珍しく気にしているのだろうか? 「DV料理人なんかじゃないですよ。高杉さんは天才料理人です。高杉さんの出し巻き卵が一番美味しいです!」 鉄平がニコッと笑って言うと、高杉が照れたように 「褒めても何も出ねぇぞ! オラ。さっさと働け!」 鉄平の頭をポンと軽く叩いた。 だが、その日のまかないは絶品出し巻き卵が出たのだった。 鉄平がロッカールームで着替えていると、もう一人のバイトの加護が入ってきた。 「あ。おはようございます」 鉄平は挨拶をしたが、加護はツカツカと無言で近付いてきた。 「鉄平ちゃん! どうゆうことなの?」 「えっ?」 加護がスマホ画面を鉄平に向けた。高杉と志狼が睨み合っている写真だ。 「えっ!? なんで……」 「奥田ちゃんが送ってくれたのよ」 奥田とは、高杉目当てで通っている二人組OLの片割れだ。 加護と常連客の何人かは、連絡先を交換しあっており、「高杉会」なる非公式グループを作っていた。 加護はヒョロリと細く、モデル体型で背が高い。ユニセックスなファッションで、口調もオネエだ。 自称どMで、高杉に怒鳴られて喜んでいた。 「この素敵なガチムチ様と一緒に暮らしてるって、どうゆうこと?」 「あっ、あの。家族が夜逃げして、しろうが拾ってくれて……居候させてもらってて……」 「しろうってお名前なの? ちょっと詳しく聞かせなさいよ!」 加護が根掘り葉掘り聞いてきたが、高杉の「お前ら!! さっさと働けぇ!」の一声で、加護はいそいそと着替えて店に出た。 その後、加護と一部の常連客達で「志狼会」という非公式グループが作られる事となる。 鉄平がバイトの日。 志狼の仕事が先に終わる時は、必ず居酒屋まで鉄平を迎えに来た。 ついでにビールと飯も温温庵で済ませていた。 確かに高杉の料理の腕は絶品で、どれを食べても美味いのだ。 高杉の方も志狼の侠気に気付いており、仲が良いとは言えないが、お互いを認め合っているようだった。 「おう。DV料理人」 「うるせぇ。不良刑事」 二人はこうした軽口を叩くようになっていた。 加護はというと…… 「志狼さま! いらっしゃいませ~。今日もセクシーですね……」 と、うっとりと志狼を見ていた。 「お、おお」 志狼は若干ヒキ気味ではあったが、悪い奴ではないので気にしなかった。 志狼は鉄平がバイトに出る週末に店に来ていたので、その日は志狼目当ての客が増え、今まで以上に忙しくなった。 竹田としては、集客率UPに繋がるので、有り難かったが。 そんなこんなで、鉄平は今も温温庵でバイトをしていた。 ハロウィンのコスプレ衣装は加護が用意すると言っていたが、加護の瞳が妙に輝いていたものだから ……鉄平は少し不安になったのだった。

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