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ハロウィン当日2
『今日は加護さんとちょっと約束があるから、お店に来ないで大丈夫だからね!』
今朝、志狼が鉄平に言われた言葉だ。
『来ても俺はいないかもだし。お店に来る必要ないからね。わかった?』
あまりにも挙動不審だったので、志狼は「わかった」とだけ答えた。
───何か隠してるな。
鉄平が浮気だとかは思っていない。加護が何かするとも思えない。
だが、鉄平はお人好しで流されやすく、華奢で力が弱い。
変な気を起こした男に騙されでもしたら、あのか弱い子猫など逃げる術はないだろう。
繰り返し店に来るなと言われたが、志狼は仕事を早めに切り上げスーツのまま温温庵に向かった。
店は大忙しだった。
常連客は本気のコスプレから、猫耳カチューシャだけ付けた者まで、皆それぞれノリノリだった。
店長の竹田はクマのぷーさんのぬいぐるみタイプの帽子だけ被っていた。
加護が用意したものだが、「僕だけ手抜きじゃない?」と竹田は不満げだった。でもよく似合っていたし、できるなら鉄平は代わってほしいくらいだ。
鉄平はさっきから「可愛い」「可愛い」と、写メを撮られまくっている。
主に男性客に。
特に中高年の男に。
女性客は着流しの高杉をうっとり見つめていた。
今夜は予約も多く、「二時間まで」と時間制限付きで回していた。今も満席状態だ。
ガラガラと入り口が開き、また客が入ってきた。
「いらっ……!?」
入口を見て鉄平は固まった。
店に入ってきたのは志狼だった。
「し……!?」
「きゃー! 志狼さま! いらっしゃいませっ」
鉄平が固まっている間に、加護が志狼の前に飛び出してきた。志狼は少しギョッとした様子だ。
「くたびれたスーツに鋭い眼光……オッケー、志狼さま。ハードボイルドな刑事のコスプレって事でビールサービスするわ」
加護が志狼を舐めるように見て言った。
鉄平は今のうちにバックヤードに隠れてしまおうかと、抜き足差し足していたが
「鉄平ちゃん。志狼さまにビール!」
「は、はいぃ!」
加護の一声で飛び跳ねた。恐る恐る振り返れば……志狼の目が鉄平を捕らえていた。
───どうしよう。ハロウィンでコスプレするやつは嫌いって言ってたのに。
鉄平はセーラー服の裾をきゅっと握って俯いた。その顎を志狼がクイっと指先で上げさせた。
「タマ。めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか」
マジマジと鉄平の顔を見る。
「えっ……ええ!?」
志狼はニヤリと男臭い笑みを浮かべて、鉄平の耳元で囁いた。
「バイトが終わったら、その格好のまま帰れ。そのまま抱きたい」
「な、なっ!?」
鉄平は真っ赤になって、慌てて厨房へビールを注ぎに逃げた。そんな鉄平を見て、志狼はニヤニヤと笑っていた。
───ははぁ。あの格好を見られるのが嫌で下手な嘘をついたんだな。
鉄平の女子高生姿は、ぶっちゃけエロかったし、あのまま鳴かせたくなった。
そんな志狼の顔を盗み見て、加護と内田が「エロい」「エロいわぁ」と小声で囁きあった。
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