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猫、セクハラされる
店は満席だったが、内田が陣取っていた隅のカウンター席を志狼に譲った。
志狼は遠慮したが、今日は店を手伝いつつも開店時から居座っていたのだからと志狼を座らせたのだった。
志狼は鉄平をニヤニヤと眺めていて、鉄平は頬を染めて仕事をするハメになった。
照れた様子がまた可愛いらしく、志狼は夜のことを思って、また笑みを深める。
「おい。うちのバイトをスケベ面して見てんじゃねぇよ」
厨房からカウンター越しに高杉が志狼を睨んだ。
「ぁあ? あいつは俺のなんだから、好きなだけ見るさ」
志狼の言葉に高杉がチッと舌打ちをした。
その時───
「や、やめてくださいっ」
鉄平の声に志狼と高杉が鉄平の方を見た。
酔っ払った中年男の客が鉄平のスカートをめくろうと引っ張り上げていた。
「いいだろぉ! 減るもんじゃねぇし。お前、チンコついてんだろ?」
「やっ! やだぁ!」
ガタッと志狼が席を立ったのと、高杉が厨房から包丁を投げたのは同時だった。
「ひえっ!?」
包丁は中年男の眼前の壁に突き刺さった。見事なコントロールだ。
「コラァ!! うちのバイトにセクハラしてんじゃねぇよ!!」
「わ、わ……ぐえッ!?」
今度は志狼が中年男の首を掴み、高々と持ち上げた。そのまま店のドアを開けて運び出す。
「失せろ」
低く唸って、向かいの路地裏に放り捨てた。
くるりと踵を返し店に戻ると……
真っ赤になって俯く鉄平の頭を高杉が優しく撫でているのが見えた。
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