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さまよう猫1

鉄平がちょうど風呂から上がったとき、志狼が戻ってきた。 手には鉄平の好きなファストファッションのショップバッグだ。 着替えなんて何でもいいのに……。志狼はわざわざ、鉄平の好きな店まで走ったのだ。 鉄平の胸がきゅっと締め付けられた。 そんな風に優しくしないでほしい。 「タマ」 ショップバッグを置いて、志狼が鉄平の側に来て口付けた。 「あのセーラー服は俺が買い取る。汚して悪かった」 「……いいよ、もう」 鉄平は少し赤くなって俯いた。 「タマ?」 「しろうもお風呂入ったら? 俺、疲れちゃったから、ちょっと寝てていい?」 「ああ、少し寝てろ。ごめんな。無理させて」 「……うん」 志狼はもう一度、鉄平をきゅっと抱きしめてキスをしてから風呂場に行った。 鉄平はショップバッグを開けて、着替えを出した。 デニムとカーキのTシャツとグレーのパーカーだ。カーキは鉄平の好きな色だった。 サイズも好きな色も、志狼は覚えてくれている。 だから、余計に辛くなった。 気まぐれで拾った。男娼代わりの自分に優しくなんかしなきゃいいのに。 鉄平は新しい下着を履き、洋服を着た。 そして、静かにドアを開けて部屋を出て行った。 ホテルを出て、フラフラ当てもなく歩いた。 今、志狼の側にいたくなかった。志狼と一緒にはいられない。でも…… ───どうしよう。行く場所が無い。 あの古い日本家屋。もうすっかり志狼の家が鉄平の帰る場所になっていた。 だから、志狼にとって自分は特別だと勘違いをしていた。 でも……自分は男娼と同じ。 飽きたらきっと、志狼に捨てられる。最初に拾ったときと同じように。気まぐれに。 「……ぅ、ふ……ひっ……」 鉄平の向日葵の瞳から、こらえきれずにボロボロと涙が溢れた。 人通りは少ないが、通り過ぎる人が少し驚いた顔で鉄平を見た。でも涙を堪えることができなかった。 「うっ……ぅう……ひっく」 ひっくひっくとしゃくりあげながら、鉄平はまるで捨て猫のように夜の街を彷徨い歩いた。

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