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好きということ1

突然、佐和は襟首を掴まれ、引っ張りあげられた。 「……ぐえっ!?」 「てめぇ!! タマに何してやがる!!」 「しろお!!」 喉元を掴んで、殴りかからんばかりに志狼が佐和に怒鳴りつけた。 店のガラス窓から鉄平を見つけた志狼は、鉄平の涙に佐和が何かしたのだと思ったのだ。 「しろう! 違う! やめて、離してっ!」 鉄平が必死で志狼に縋り付いた。 「なんにもされてない! 話を聞いてくれただけ!」 志狼はしぶしぶ佐和を下ろした。 「ゲホッゲホッ!……はぁ……死ぬかとおもったぁ」 解放された佐和は、しゃがんでゲホゲホと咳き込んだ。 「佐和さん! 大丈夫!?」 鉄平が心配そうに駆け寄るのを、志狼が阻止する。それを見て、佐和はニヤリとして言った。 「な? 心配しなくても志狼さんは鉄平君に夢中だって」 「佐和さん……!」 「何の話だ」 佐和は喉をさすりながら立ち上がった。 「志狼さん。うちの場所、使ったでしょ。鉄平君がね、男娼代わりにされたって泣いてましたよ」 「言っちゃだめ!」 「タマ!」 「ちゃんと話し合わなきゃ、ね」 志狼の視線を感じて、鉄平は俯いた。 「ここじゃ目立つ。店を出てどっかで話し合ってくださいよ」 さっきの騒動で周囲の客が怯えた顔で三人を見ていた。 「佐和。悪かった」 「いえいえ。痴話喧嘩はなんとやら……です」 志狼に手を引かれて鉄平は店を出た。 鉄平は不安げに佐和を見たが、佐和は親指をぐっと立てて人懐っこい笑みを浮かべていた。

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