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好きということ2
結局、二人はさっきのホテルに戻った。
よく見ると志狼の髪は濡れていて、シャツを羽織って慌てて飛び出してきたようだった。
部屋に入り、鉄平は志狼にぎゅっと抱きしめられた。
「……心配した」
「ごめん」
抱きしめる腕を緩め、志狼が鉄平の頬に手のひらをそわせて聞いた。
「さっきの……佐和が言っていたことはどういう意味だ」
「あの……」
鉄平は視線を彷徨わせたが、意を決して話し始めた。
「綺麗な顔の男の人たち、みんな、しろうを見てた。しろうが相手なら、お金はいらないって」
「昔の事だ」
「でも、今日……あの場所で、エッチしたでしょ。嫌だって、言っても……男娼みたいに」
「タマ! 違う……」
「聞いて!……最初、しろうは俺を男娼だと思ってたでしょ」
鉄平は乾いた唇を舐めて、言葉を続けた。
「俺……やっぱり男娼の代わりなのかなぁって思って……悲しくなっちゃ……っ 」
また向日葵の瞳に涙が浮かんだ。
「違う!」
志狼は震える華奢な体をきつく抱きしめた。鉄平にそんな思いをさせていたなど、全く気付かなかった自分に腹が立つ。
「お前を男娼代わりなんて思ってない! 俺はお前が好きなんだ」
「じゃあ、なんであんな場所で? 俺っ……いやって言った。いやって言ったのに……」
「……ごめん。ヤキモチだ」
「えっ?」
「居酒屋で、セクハラされたお前を高杉の野郎が慰めてたのが……気に入らなかった。あんな可愛い姿を他の男に見せたことも」
「だって……」
志狼は大きな両手で鉄平の頭を包んで、額に軽いキスをした。
「こんなことは初めてだ。お前を誰にも見せたくない。他の男に触れさせたくない」
鉄平のアッシュグレイの柔らかな髪に、愛しげに頬をすりよせるようにして言った。
「しろう……」
「……好きなんだ。お前が」
甘く切ない声音で囁かれた。志狼のこんな声は初めて聞いた。
鉄平の胸が温かく、切なくなる。
セックスをするときよりもずっと……心地良い胸の痛みが鉄平を襲った。
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