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第12話

12  いよいよ、(主に婚約している人たちが)待ちに待ったアプデの日がやってきた。結婚システム以外にも、新しい装備や新しいダンジョン、新しいストーリー等、たくさんの新要素が追加されたようだ。ゲームにログインすると、季節柄、クリスマスのイルミネーションめいたキラキラしい装飾もあちらこちらに追加され、この世界が一新されたことを実感する。 「こんばんはー」  挨拶をすると、「ばんわー」「うっす」「やっほー」等、いつも通り、ギルドのメンバーからの返事が返ってくる。そこにはシノさんの名も連なっていて、早速、シノさんから「アキー」と二人だけが見えるチャットが飛んでくる。 「シノさんー」 「アプデきたぞ」 「うん、色々キラキラしてんね」 「クリスマスモードだな」  ちなみに、クリスマス限定のイベントなんかもあるらしい。ギルドのチャットでは、その話で盛り上がっている。 「教会に行けば、クエが受けられるみたいだぞ」 「えっ、結婚?」 「そうそう」 「いよいよかあ」 「いよいよだな」 「なんか、感慨深いね」 「そう?」 「あ、俺だけ」  なんて会話を交わしながら、俺たちはその、教会、に向かった。  ラミンスター礼拝堂、という名高い教会は、草原を越えた丘の上に聳えたつ。オーソドックスな教会の形をしており、十字架が煌めいている。中は広く、たくさんの椅子があり、中央にはステンドグラスと、厳かな燭台があった。 「きれいだねー」  思わず俺は、暢気に話しかける。隣に立つシノさんが、頷いた。「あそこにいる人に話し掛けて、クエストを受けるらしい」 「おー、美人なおねーさん」 「シスターって感じだな」  シノさんの言う通り、黒が基調の丈が長い修道服に身を包んだヒューズの女性が、慎ましやかに立っている。俺たちはその人の傍に行き、話しかけた。 『永遠の儀式をお望みですね』  すげー名前だなあ。この世界では、結婚のことを、永遠の儀式、というらしい。壮大過ぎて、現実味がない。いや、決して現実ではないんだけども。 『伝統に則り、あなた方の絆を、確かめさせて頂きます』  あー、こういう感じね。幾つかの段階的な手順を踏んで、アイテムとかを納品して話を進めていくスタイルだ、きっと。各種族の主な国が指定されて、どこそこにあるなになにという場所のパワーをこの宝珠に収めてあなたがたの旅路を記録してください、そしてそのパワーを互いが作った指輪に込めることができて初めて儀式が行われるのです、そう訥々と話すシスターのテキストをボタンで押し進めて、俺はチャットを打った。 「儀式だって、儀式」 「すごいなー、本格的じゃん」 「愛を確かめるんだねえ、これで」 「愛なwww」  笑うシノさんに俺も笑う。  きっと俺たちと同じように(或いはもっと真剣なものかもしれないけれど)、婚約をしているらしいキャラクターが次々と教会内を訪れて、シスターに話しかけては去って行く。以前別のクエストで来た時よりも混雑している。前はがらんどうだったのに。 「というわけで、アキくん」 「はい」 「まずは我らがトレントに行こうか」 「おけ、行こー」  シノさんに促されて、俺たちはワープして、故郷であるトレントへと向かった。  俺たちの故郷であるトレント、ヒューズが中心に暮らすトレドヴァ、フェアリーの楽園・ピアチーノ、オークが守るセルヴォリ。各国をワープという最短ルートで周った俺たちは、然して苦労することもなく、もらった宝珠にパワーを集めることができた。尤も、主にシノさんが次に行く場所を把握していて、俺はそれについて行ったというだけなんだけれども。 「あっさり集まったなw」 「シノさんのおかげ、ありがとー」 「いえいえ」  各国を回ると、今までゲームの中で通った軌跡を思い出す。愛ある恋人同士ならば、それぞれの場所で思い出に耽ったのかもしれない。俺たちはあっさり終わらせて、パワーを溜めて輝いている宝珠を持ち、再び教会に戻って来た。 『各国の力……あなたたちの絆を祝福する、温かな光を感じます』  ボタンを押すと美人なシスターがそう話し、俺たちの旅路を祝福してくれた。お互い職人技で作った指輪を見せると、クエストが進行する。長々とした説明の後、結婚式の日取りを決められるようになった。 「ついに結婚式かあ」 「あっという間だったなw」 「そうだねえ、感慨深くはないねw」  もうちょっとこう、大きな敵が聳え立ったり、すごい試練が立ち塞がったりするのかと思ったけれども、ただの思い出巡り、聖地巡礼のような形だった。でもまあ、そんなに辛い試練があったら、結婚する人が減っちゃうだろうから、これぐらいが適当かも。  厳かなはずの教会内は、俺たちと同じような目的の人たちで、賑やかだ。そこの隅に立ち、先程の説明を確認する。 「ギルドの人たちに声掛けるか」 「結婚式に参列できるっていうのがもう、リアルだよね……」 「一番乗りっていうのもウケるなw」  結婚イベントには、友達を呼ぶことも出来るらしい。イベントのムービーが流れるのを、友達も一緒に観ることが出来て、共有できるようだ。うーん、そこらへんはなんだか、リアル。引き出物として、参列者にもアイテムが贈られるっていうのを聞いて、少し驚いた。 「俺たち結婚しまーす」  ものすごい軽い感じで、ギルドの皆に告げたら、「www」「一番のりおめでとう!」「ホモ婚おめー!」「おめでとう!」と一気にお祝いのチャットが流れ出した。みんな、とてもノリが良い。 「式はいつにするのー?」 「皆に来てほしいから、都合が合う日にしようかと」  リリアちゃんの問いかけに、シノさんが答えてくれる。 「平日ならこれぐらいの時間がいいよね」 「うんうん」 「楽しみw」  俺もシノさんも、ギルドの皆も、平日なら二十時から日付が変わる頃までログインしている。ネトゲというと、ニートの廃人、みたいなイメージが強いけど、ちゃんと皆(多分)社会人で、仕事をしながら息抜きにゲームをしている人が多い。結婚式も、プレイヤーの都合の良い日取りを決められる。決めた日時に教会に行けば、後はシステムが勝手にムービーを流してイベントを進めてくれるというわけだ。  シノさんがギルドメンバーの予定を調節して、一番都合の良い、つまり丁度一週間後のこの時間に、結婚式を行うことにした。 「装備揃えなきゃねー」 「おー、アキドレス着る?」 「いやいやシノさんでしょ」 「打ち合わせしようなw」  シノさんのテンションが何気なく上がってるのに気付いて、俺も嬉しくなる。喜んでるのは、俺だけじゃない。  ――一週間後が、楽しみになった。

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