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第14話

14  ――結論から言わせてもらうと、結婚式は、本当に、結婚式だった。  ステンドグラスから差し込む日の光が眩しい教会の中に、正装をした招待客が集う。真ん中には、司祭服に身を包んだ神父の姿があり、新郎新婦の登場を待っていた。きらきらと輝く教会は厳かで、それでいて美しかった。  俺とシノさんは新郎新婦(?)が待つ控室で、招待客の準備が整うのを待つ。衣装は、この日のために準備した、とっておきの可愛らしいドレスだ。どうせなら、ということで、どっちもスカートを履くことにした。俺はピンクで、シノさんは水色。ある意味ケバいけれど、ネタに走るならとことん走りたいという真面目なシノさんたっての希望である。袖の部分にフリルがあり、胸元はコルセットのようになっていて、大きなリボンが幾つか連なっている。豊満な胸がない代わりに、がっちりとした胸筋が強調されている。俺のキャラクターよりも背が高くガタイの良いシノさんが、どう現れるのか楽しみだ。スカートはふんわりとした足首までのもので、足元は赤い薔薇がワンポイントになっているハイヒールだ。衣装まで細部にこだわるシノさん、流石です。 「はーい、みなさーん! 本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございまーす!」  仲人役を頼んだリリアちゃんの声が、教会に響き渡る。控室からじゃ、どんな様子か窺えないけど、声をかけた友達はもう揃ったようだ。 「いよいよ、新郎と新郎の入場です。熱い拍手をお願いしまあす!」  リリアちゃんの声を合図に、俺とシノさんがボタンを押す。  その直後、イベントのムービーが始まった。教会のドアが開いて、赤い絨毯(ヴァージンロード)の上を、俺とシノさんが寄り添って歩いている。ガタイの良いシノさんの胸元は、やっぱり胸筋がはちきれんばかりで、普段はあんなにイケメンなのに、ブーケを抱いて頬を染めている姿は、うん、ちょっと、面白い。「ちょwww」「どうしたのwww」「おめでとうおめでとう」と、ツッコミのチャットが一斉に流れてきた。頬を染めたシノさんが、俺を見下ろして微笑んでくる。俺のキャラクターも、シノさんを見上げて、笑い返した。ラブラブだ。  一歩一歩ヴァージンロードを歩くと、脇に立つ友人たちが拍手をする姿が目に入る。その装いも様々で、白いドレスを着た女の子や、黒いスーツの女の子、めいいっぱいオシャレした女の子、スーツのイケメン、そして、仮面を着けた半裸のイケメン等、個性豊かな面々だ。「おめでとう!」「世界一のホモ!」「おしあわせにー!」と、それぞれが心のこもった祝いの言葉をぶつけてくれる。  ヴァージンロードを歩いて、神父の前に立つと、俺とシノさんは向かい合った。高画質だから、やけにリアルだ。 『アキさん、シノさん』  白髪で髭を蓄えた、細身ながらに貫禄のある神父が、俺たちを交互に見て名前を呼ぶ。ここでカメラは俺たちを正面に据えて、顔を見合わせて頷く場面を映した。背景には、長椅子に座ってこっちを見つめている、個性豊かな面々の姿がある。 『あなた方は、互いの絆を永遠のものにしようとしています』  神父さんが、真面目に語りかけてくる。勿論、画面の中に立つ俺の分身であるアキの表情も、そして頬を染めているシノさんの表情も、真面目そのものだが、そのことが何だか可笑しくて、リアルの俺は肩を揺らす。 『この絆を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、パートナーの役割を果たし、常に相手を愛し、敬い慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、シノに対して、堅く節操を守ることを約束しますか?』  つらつらと流暢に語る神父の言葉に、堪え切れずに吹き出した。リアルの俺が。それと同時に、画面上で、「wwwwwwww」「本格的wwww」「感動するなあ」とギルドの面々のチャットが流れた。 「誓います」「誓います!」  俺たちは同時にチャットで打ち、画面の真ん中に浮かぶ<誓います>というボタンを押した。リンゴンリンゴンという壮大な鐘の音と、荘厳な音楽が流れ始めた。 『それでは、指輪の交換を行います』  この日のために準備をしていた、手作りの指輪を取り出す、二人のイケメンたち。向かい合って見つめ合い、まずは、俺のキャラクターが、シノさんの左手を取って、その薬指に輝くプラチナリングを嵌めた。 「ちなみにこの指輪、それぞれの手作りのようですー」  そのタイミングで、リリアちゃんのアナウンスが入った。「wwwwww」「ラブラブかwww」「おしあわせに……」と、ギルドのメンバーが反応を返してくる。  シノさんが頬を染めて、今度は俺のキャラクターの左手を取る。そして同じように、その薬指にプラチナリングを嵌めてくれる。キラキラと煌めく効果が付けられて、リアルの俺は、正直、笑いを堪えるのが厳しい状況だった。  それぞれが招待客の方に向き直り、左手の薬指についた指輪を見せる。招待客は、盛大な拍手を送ってくれた。 『さあ、永遠の絆を誓う、口付けを……』 「wwwww促されたwwwww」  流石に堪え切れなくなって、俺は思わずチャットを打ちこんでいた。「wwwww」とシノさんも笑いを返してくれる。壮年の神父さんは真面目な表情で俺たちの成り行きを見守ってくれていた。ムービーというのはあらかじめ用意されていて、画面の中の俺たちのキャラクターは、迷う素振りも、爆笑を堪える様子もなく、お互いの顔を見つめ合っていた。俺の方が、手を伸ばしてシノさんの頬に触れる。背が高いシノさんが少し身を屈めて、ゆっくりと顔を近付けて、唇同士が触れ合った。 「ちゅーキターーーwwww」「おめでとうおめでとうおめでとう」「イケメンちゅーwwww」「お幸せに!」「よかったねえ」怒涛の勢いでチャットが流れ出した。祝いの言葉に反応できない。だって、画面の中で、お揃いのドレスに身を包んだイケメンたちが熱いベーゼを交わしているのだ。平常心でいられるわけがない。  口付けたまま、徐々に画面がフェードアウトして行って、ムービーが終わる。 「いやー、よかった」 「面白かったwww」 「ありがとうイケメンたち……」  ムービーが終わっても尚笑いの尾は引かず、多分それは友人たちも同じだったようで、チャットで口々に伝えてくる。 「すごかったな……」  シノさんも同感のようだ。  まさに本格的な結婚式は、この後、全員集合の写真を撮り、二人乗りの白馬に乗って退場することで終わった。退場の場面でまで、見つめ合って頷くものだから、笑いの渦は止まない。「招待してくれて本当にありがとうwww」「動画保存したわwwww」とまで言ってくれる人がいたので、ネタイベントとしては成功な気がする。  無事に結婚式を済ませた俺とシノさんは、来てくれた友達にお礼を言って、自分たちの部屋に戻った。

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