12 / 62
〃
奏「あー……あの件か?」
そう奏多さんが問うと、泣きながらコクコクと2人とも頷いた
なんだかよくわからないけどなにかあったようだ
俺は、冬馬さんとは元セフレ……としか聞いてないから事情はよくわからないが
難しいところがあるんだな…………と思った
なんだか、つっこんではいけない空気を感じたため…………静かにふたりを見守った…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
話し合ったことでスッキリしたのか
しばらくすると泣き腫らした目をした2人がきゃっきゃと嬉しそうに席につき、食事をしていた
それをみて、俺と奏多さんも席につき、静かに見守った
食事も終わり、まったりタイムになった
視界の端で朱雨と冬馬さんが和馬くんをあやしているのがみえた
その様子を微笑ましく見つめていると
俺のそばに奏多さんがきた
すると、ポツポツと俺にあることを教えてくれた
冬馬さんはずっとあることを引きずっていたらしい
引きずっていたことがなんなのかは、詳しくは聞き出せなかったが、朱雨が関係していることだけはわかった
今回、朱雨と俺を映画に誘ったのはその罪滅ぼしも兼ねてなんだそう
さっき朱雨と話して、引きずっていたことを吐き出せたのだろうか、いつもより明るくなった……と嬉しそうにしていた
愛おしそうに語る姿、見つめる目から、奏多さんが本気で冬馬さんのことを愛していることがわかって、少し羨ましく思った……
しばらく話すこともなく、無言で肩を並べていると
奏「なぁ、ところでそれ結婚指輪か?」
鈴「あ…これは、婚約です…………」
奏「お前も番持ちか」
鈴「はい……」
そういわれ、指輪に目を向ける
自然とにやにやしてしまうのがわかる
だって…………指輪だよ?
晴也のものだという印が目に見えてあるのはいいなと思った
そぉっと奏多さんの薬指をみると
そこには指輪がなかった
不思議そうに見ている俺に気がついたのかポツポツと話してくれた
奏「あー……俺ら買ってないんだよな指輪」
鈴「え!?なんでですか!?」
奏「運命のつがいじゃねぇからな…………」
そう、静かに呟かれたセリフにズキンと胸が痛む
そのセリフには、色々な意味がこもっている気がする…………
運命の番はΩにとって心臓のようなもの
たとえ、番を既に作っていたとしてもΩには関係ない
αはあまりその影響を受けないが
Ωにもたらされる運命の番の影響は大きい
…………多分、自分をいつでも捨てられるように…………指輪を買っていないのだろうな………………
話しながら、悲しそうに遠くを見つめる奏多さんに、無性に腹が立った…………
なんだか知らないけど…………奏多さんの考えで自分の気持ちを勝手に決められて……本物の相手が来たら、身を引きます……みたいに思われている感じがして……腹が立った
鈴「…………縛ればいいと思います」
奏「あ??」
ポツリと話した俺を訝しげに見てくる彼
鈴「どうして、縛らないんですか
つがいなんですから、遠慮はいりません
指輪がどれほどの効果をもたらすか……
見てるだけで安心するし…………
大切にされているんだなと思えます
なのに、運命の番じゃないからって……
指輪を送らないだなんて…………
そんなの言い訳だ…………
…………運命の番のとこになんかいかせねぇ
とか、大きい口叩けばいいんですよ
冬馬さんは…………あなたのものなんだから」
息もできないくらい早口でそう捲し立てる
奏多さんをみるとポカーンとした顔をして俺を見つめていた
そんな様子の彼を睨みつけるように見つめる俺……
しばらく俺と見つめあっていると
耐えきれない、とでも言うように彼が吹き出す
鈴「…………なに笑ってるんですか」
奏「いや…………情けねぇなと思ってさ」
くくっと笑いながら泣きそうな彼
何を言っているのかわからず、次の彼のセリフを待つ
奏「俺は…………自分が可愛かっただけなのかもな……
縛るのが怖くて…………
冬馬の将来を決めてしまうのが怖くて…
…………俺でいいのか不安になって……
けど………それは勝手に俺が決めてるだけだもんな
冬馬からすりゃ、信頼がないのか、と捉えられるかもな…………
そうだよな…………黙って愛せばいいんだもんな
指輪……聞いてみるよ……
ありがとな、鈴」
そう、お礼を言う彼は
なにか吹っ切れたような、キリッとした顔をしていた
鈴「あなたにはそれくらい堂々とした顔が似合います」
奏「あ?偉そうな顔が似合うってか?」
鈴「……そうですね、はい」
奏「くそ生意気…………けどありがとな」
鈴「いえ、大丈夫です」
リビングの隅っこでクスクスと小さな笑い声を互いにあげる俺たちだった……
ともだちにシェアしよう!