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第一章・絶望。

 (一)  外壁は崩され、家々は破損し、木々が燃えていく……。  村という形すら消えかけているそこは真っ赤な鮮血に染まりゆく。  そこは泥まみれになって逃げ惑う人びとの泣き叫ぶ悲愴な声と罵声が飛び交う。  逃げ惑う村人を追うのは、十にも満たない数の巨大な悪魔――ジルグだ。  彼らは剥き出しになった灰色の皮膚にでっぷりとした腹と、大きな口から飛び出す鋭い二本の牙。そしてその巨体に見合った武器は鎖で繋がれた鋭く尖った円形の鉄の重りを持つ。  村人はことごとくその重りに押し潰され、命の灯火が消されていく……。  男も、女も、幼子も、老人も――それらの命は確実に消えていく。  それでも村人たちは勝機のない地獄の惨劇の中を懸命に生き長らえようと逃げ続ける。  深い絶望。混沌とした闇。  彼らはまさにその真っ直中にいた。  しかし、事態は常に変化する。  突如として馬の(ひづめ)が鳴り響いたかと思うと、男たちの雄々しい声が重苦しい悲惨な光景を掻き消した。

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