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第一章・闇の勢力が増していく。
長老は窪んだ目に涙を浮かべ、嗚咽を漏らしながらそう訴えた。
そうしてもう一度頭を下げた後、彼は崩れ落ちた瓦礫と化した家の代わりにキアランが与えたテントの中へと戻った。
目の前では勢いよく燃える炎が乾いた音を立てている。燃える破片が空気中に舞った。
「キアラン、先の話をどう思う? ジルグでも厄介な相手なのに、それとは違う魔族というのが気になるな」
「日に日に闇の勢力が増している……俺たち光のエルフにとって、魔族は対になる存在だ。相手の動きはもちろん、どういった軍勢が存在するのか確かめる必要がある」
キアランは手にしたグラスの中にある残り少なくなったワインをひと息に飲み干した。
この世が日を増す毎に闇へと染まりつつあることを思い知る。
口内には甘い葡萄の香りは消え、苦いものが溜まる。
どうやら今日も心地好い酔いはやって来ないらしい。キアランはどうにも抑えきれない苛立ちに歯を噛み締めた。
「それで、どうするつもりだ? このまま引き下がるようなお前でもないだろう?」
「無論だ。父上には知らせを出し、兵を二手に分ける。一方はこの村の民をフェイニア国へ送り届け、残りの兵士は俺と共に明日、東へ向かう」
「……まあ、そうなるだろうな」
ジュリウスはキアランの言葉を聞くと深く頷いた。
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