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青息吐息→sideM(元宮)

虎王のマンションに着くと、士龍さんはなんだか落ち着かない様子で、拳をぎゅっと握ると思い切ったように前に立って歩き出す。 普段の余裕に満ちた雰囲気は、今はまったくない。 そわそわというよりかは、何だか躊躇っているようだ。 「木崎…………あのよ」 後ろに一緒についていく木崎なら何か知ってるのではないかと思って声をかけると、木崎は眉をあげて小声で話す。 「士龍サン、いまはなんとか平気な顔してっケド、かなりキテるからよ。俺もさっきみたく怒鳴るとことか初めて見たし。……それに、メシもあんまりくわねーし…………」 深くため息をついて、木崎はひそりと呟き心配するように、士龍さんの背中の後ろを歩く。 確かにこの人の不機嫌な顔も、怒鳴り口調もはじめて見た。 怒らせたのは、俺だけど、そんなことで普段は怒りをあらわにする人ではない。 だから、派閥のみなも心配でピリピリしてたのだろう。 エレベーターを降りてマンションの部屋の前に立つと、士龍さんは迷いなくインターホンを押した。 まったく動きに迷いはないのに、何故か指先が小さく震えているのが分かる。 全然らしくないのに、無理やり意地をはるのは非常にらしすぎた。 士龍さんも、虎王のことが好きだったのだと、分かっただけで胸の中にあったモヤモヤしたものがゆっくりととけていく。 インターホンを押してもなかなか返事がこない。 しばらくしてようやく扉が開くと、出てきたの虎王ではなかった。 ダンディというのが相応しい落ち着いた感じの白髪まじりの金髪の男で、外国人のような雰囲気持っている。 何度か小学校とか中学校の運動会とかで会ったことがある。 「…………士龍」 虎王の父親は、俺らを見まわし何故か息子のダチに対するような口調ではなく、士龍さんを当たり前のように呼び捨てに、呼んだ。 「Takeo Wo sind……」 士龍さんは、滑らかな口調でどこの言葉かわからないが、虎王の父親と外国語で話し出す。 二人とも日本人離れした顔つきなので、その言葉が似合っていたし、まるでそれが当たり前の会話のように話していた。 何かを言い合ったあと、士龍さんがひどく慌てたような焦った表情になったのが分かった。 俺達はおいてけぼりを食らった表情のまま、2人のなぞの会話を聞いていた。 良く見ると、虎王の父親と士龍さんはよく似ていた。 親子である虎王より、さらに士龍さんはそっくりだった。 「……士龍……、あとカナタ君たちも部屋に入れ。ここで言い合っても仕方がない。寒いし風邪をひくだろう」 ガキの頃から遊びに出入りしていた俺の名前は流石に覚えていてくれたみたいだ。 「…………皆心配してんだ……だからきた」 「そうみたいだな。日本語うまくなったのなら、これからは日本語で話そうか」 虎王の父親は俺らを中に入れると、リビングの方に向かう。 訳がわからない表情で木崎を見ると、木崎も首を横に振る。 「俺、10歳まではドイツにいたんだ。親が離婚するまでは、橘士龍だった」 木崎は、首をひねってわけがわからないという顔をしたが、俺には分かった。 虎王の父親は、駅前の橘病院の院長だ。虎王は意地を張って籍を入れてないらしいが、本来ならば橘虎王というのが正解だ。 たぶん、それが士龍さんと虎王が別れた理由なのだろう。 士龍さんは遠慮せずに部屋の中に入っていくので、俺と木崎は後ろをついていく。 一人暮らしには広いリビングのソファで、虎王の母親が三つくらいの子供をだいて泣いている。 俺に気がつくと涙を指先で拭いて、 「カナくん、虎王がっ、虎王が、しんじゃうっ」 俺に助けを求めるように歩み寄り、腕を掴んで泣き崩れるおばさんを俺は慌てて、抱き起こす。 「さっきも言ったが、虎王はここにはいない。誘拐、された」 「ど、どういうこと、だ?」 本気で切羽詰まった表情の士龍さんを、俺はこの時初めて見た。

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