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虎穴虎子→sideS

玄関から出てきたとーちゃんから、虎王はここにはいないと告げられ、そんなはずはないから出せとドイツ語で言い合ったが、いないし本当だと返された。 なんだか言い知れない不安ばかりが、胸をしめる。 まさかとは思うが、思いあまって自殺…………なんかしてねえよな。俺と別れたくらいで、そんなことしねえよな。 心臓がバクバクして止まらない。 もう、2度と会えない…………とかじゃねえよな。 吐き気までしてきて、胸がギュウギュウに飛び出しそうにいたい。 2人を連れているんだし、もっと平然としてなきゃと思うが、握りしめた拳から変な汗が滲んできている。 リビングに入ると、多分虎王のかーちゃんだろう女性が、まだ小さい金髪の男の子を抱いてソファーに座っていた。 虎王の話だと弟がいると言っていたので、これがその弟だろう。 胸が痛くてたまらない。このままぎゅうと締め付けられて、心臓麻痺してしまいそうだ。 「カナくん!虎王が、虎王が…………しんじゃう……」 元宮に駆け寄って、泣き崩れる虎王のかーちゃんの様子にバクバクと打つ心臓が止まらない。 唇が震える。 全身が震える。 虎王が誘拐されたというとーちゃんの言葉に俺は目を見開いた。 「ど、どういうこと、だ」 俺の声はカサカサとして、なんだか自分の声じゃないみたいな感じがする。 とーちゃんを見ると、とーちゃんは俺の目の前に封筒を置く。 いまは、ドイツ語で話すつもりはないらしい。 俺は母国語がドイツ語なのでその方がいいのだけど、とーちゃんは母国語は日本語なので、俺が普通に日本語をしゃべれることが分かって日本語にシフトしたようだ。 「…………虎王がヤクザに、捕まって身代金を請求された」 俺はテーブルに置かれた封筒をおそるおそる手にする。 誘拐? 「すぐ警察に通報……っ」 スマホを取り出そうとする腕を、ぐいと強くとーちゃんに掴まれる。 「いいから中を読め」 俺は言われたように封筒から紙を取り出し、印字されている文章を読む。 いわゆる、脅迫文である。 虎王がクスリを使ってラリって海東組の組員を傷付けたので、落とし前として明日までに1000万円払わなければ、殺して臓器を売り払う。警察に通報すれば息子がクスリをやっていたことが公になるので困るだろうとしっかり二段構えでユスリと脅しをかけている。 封筒の消印を見ると、一昨日の日付になっている。 到着は昨日だとして、まだ金を払っていないのだろうか。払う金がないわけはない。 「貴方、この、子は…………?!……なんで、その手紙を…………まさか、もしかしてアナタは真壁さんの……」 虎王のかーちゃんが俺の顔を見てハッとしたような顔をする。 俺の顔は、とーちゃんの若い頃にそっくりだと、よくかーちゃんも言っている。 「真壁士龍です…………たけおとは、同じ学校で……」 「え…………そ、そうなの……」 複雑そうな顔をしながらも、ハンカチでとまらない涙を拭いながら俺を見返す。 「明日までに、お金払うよね…………?」 拳をぎゅっと握り、俺はとーちゃんに詰め寄る。 途端に、虎王のかーちゃんがうわーっと泣き出す。 「…………払えない。ここでもし払って虎王が戻ってきたとしても、これからずっと奴らに脅され続けることになる。病院のことを考えると、そんなわけにはいかない」 とーちゃんから聞いた言葉のあまりの衝撃に、俺は表情を固めた。 金を払わなかった場合、あ、と、どうなるんだっけ。 殺されて、臓器を売られる、んだよな。 殺される。ああ、虎王のかーちゃんは、このことを嘆いていたのだ。 「じゃあ、警察には?」 なら、警察に言わなきゃいけない。警察に話して、取り戻さなくちゃ。 「息子がクスリをやってたなんて、あまりに風評被害だ。警察に言って公にするようなことはできない」 苦渋を浮かべて言う父親の言葉に、俺は全身を凍らせた。 虎王を信じてもいないし、そこには愛情が見えない言葉だった。 俺と別れて自暴自棄になったとして、クスリを飲んで暴れたとしたって、親なら全部自分の責任だと、受け止めてやるべきだろう。 病院が大切なのは、わかる。 そこで働く人もいて、自分の息子のせいで路頭に迷わすことができないことも、考えそうなことは全部把握できる。 あなたは、もう、欲しくないのかな。 だったら…………。俺が欲しいと言っても、許してくれるよね。 俺は、手にした紙をグッと握った。

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