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塞翁之馬→sideT
日高はシャワーを浴びてきて、すっかり化粧も落として、ちょっとおしゃれな部屋着姿でリビングに戻ってくると、キッチンの方へと向かっていく。
やや赤らんだ栗色の髪と綺麗な顔をしているが、もう見た目もしっかり男性である。
化粧ってすげえなとも思うが、美女ではないがすこぶるイケメンには変わりはない。
キッチンから戻ってくると、日高はオレにカップを手渡す。
「なあ、落ち着いた?飲みなよ、ココア。あったまるよ」
優しく響く声も綺麗な顔も、美女というよりは王子のようだ。
イケメンでスケコマシでこのへんで有名だっただけはある。
多分、ほとんどの女性はこの顔で優しく言われたら、ポーッとしちまうんだろうな。
「ありがとう……」
オレも落ち着かないとな。まだ、頭が整理できていない。
ソファーでココアをすすると、暖かさと甘い香りにに軽く息をつく。
士龍はオレを命懸けで助けてくれたけど、それはオレが弟だからだろう。
たとえ弟じゃなくても、彼はオレを見捨てたりはしない。
…………そういう人だから。
振られたことには変わりない。
…………期待しちゃダメだ。
そう思わないと、また、ショックが大きすぎて辛くなって立ち上がれなくなる。
「なんてツラしてんだよ?たけお」
目の前で横たわっていた筈の士龍は、痛めた足をひきづりながらやってくると、まったく気にした様子もなくオレの隣へ腰をおろす。
「へえ、タケオってんだ?だからタケちゃんって呼ばれてんだな。シロの恋人は、結構がたいデケェよな」
上着を脱いだハセガワは興味津々で、オレの顔を面白がるように見返してくる。
……恋人とかって。
そんなふうにハセガワに言ってたのだろうか。
いつ言ったんだろう。
あたまが、またぐるぐるしてくる。
「…………元、コイビトだけどな…………。振られたんで。…………えっと、オレは富田虎王…………仲間は、確かに、タケちゃんとか呼ぶかな……」
ぽつりと泣きそうになるのを堪えて呟くと、士龍は困ったように肩を落とす。
ああ、士龍を困らせたいわけじゃない。
ちゃんと、ケジメつけねえと、いけねえのは………わかってるんだけど。
諦めつかねえのもある。
士龍は、軽く天井を見上げてオレに向き直るとグイッと腕を掴む。
「…………たけお、よりを戻してくれ………俺がそんなこと今更言える……筋じゃねえんだけど………」
士龍は真面目な顔で、オレを見返す。
必死な顔でオレを助けてくれた、士龍を拒否なんかできない。
だけど……。
だけど、どういう心境の変化の変化なのだろうか。
ずっと会ってなかった分いきなり、そう言われても、分かったなんてすぐに言えない。
諦めようと必死になっていたのに、すぐにきりかえられない。
士龍を見ると、少しだけ苦しそうな表情をしている。
「いいのかよ……………、弟だぞ、オレ」
弟とセックスできないと言ったのは士龍だ。
それは変わらないはずなのに、オヤジにも約束してはいて、それを守るなら命を断つことすら辞さない意思の強さがあったのに。
その心境の変化がみえない。
何故だか、オレにはわからない。
「弟なのか?!」
「とーちゃんが一緒だったんだ、だから別れたんだけど…………」
士龍はハセガワに説明をして、少しだけすまなそうな表情を浮かべて、オレを見返す。
「あの時とーちゃんから、もう何も奪えないと思って、別れるって言ったんだけどさ。…………とーちゃんがオマエを助けないっていうから、俺が助けて…………オマエを貰うことにした」
なんだか人をモノのように言う。
それなのに、オレは士龍に言われて嬉しい気持ちでいっぱいだった。
そのまま、分かったって言ってしまってもいいくらいのキモチだ。
「別れるって言ったのは謝る。……オマエが殺されちまうって、そんな状況になって…………俺はやっと、オマエがいねえとダメなんだって気がついた」
士龍は、掴んでいたオレの腕をギュッと強く握った。
願いを込めた必死な顔。
バカだな、ホントに。
オレが士龍を拒否するわけはねぇってのに。
言わないとわからないのかも、しれないな。
「オレは…………今でも士龍を愛している。それは、そうそうかわんねーよ」
ギャラリーがいるのを忘れていたが、ココアを置いて士龍の体を抱き締めた。
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