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天下宝刀→sideS
元宮に言われた教習所前の路地に原付を止めて、キーを引っこ抜く。
元より戦うつもりはないんだけど、興奮してたら何も耳に入らないだろうし、覚悟しなきゃならねえかな。
元宮がいっていた路地裏まで歩いていき、暗がりをそっとを覗き込む。
地面に倒れているのは富田君で、すでにサンドバック状態のようで身動きをしていない。
戦意をなくした相手にここまでするのは、彼にしてら珍しいなと思う。
相手として戦ったことは、1度もない。
東高に入ってから、彼に会ったことも1度もない。
ゆっくりと大股に近寄っていく。
「誰だ?」
苛立ちまぎれの低く響く声と、長身の影。
いつも目立っていた目印代わりの銀髪は、黒く染められている。
考えていたより落ち着いているようだ。
ずさっとハセガワは、富田君の後襟を掴んで引きずり寄せる。
動物が狩った獲物を自分のだとアピールしてるのと一緒のようだ。
んー。獲物を取り上げるためには、とりあえず笑顔だよね。うん。
「こんちわ。ウチの子連れ帰りにきたんだわ」
あえて戦意を出さずにむしろにこにこ笑顔を意識して、ゆっくりと近寄る。
戦意がない相手に対して、ハセガワは無理に相手になろうっていう輩ではない。
あくまでも、正当防衛(過剰防衛だが)のスタンスは崩さないのだ。
ハセガワは俺を観察するように、剣呑な視線を向けてくる。
「あー?コレ?」
ぼろ雑巾のような富田君をぶらぶらと吊る下げて、俺の顔を見て不思議そうに首を傾げる。
近づくと、ハセガワは俺をじっと見やり俺の着ている学ランを見て、いきなりぐっと戦意をむきだしにする。
「オマエ、東高?」
声音は低く少しドスが効いていて、一般人が聞いたら即座にビビルだろう。
俺より少しだけ身長は低めだが、俺が185cmあるので、それに劣らないだけの高さはある。
まあ、確か、小学生の時にはすでに170は超えてたしな。
「そだよ」
ちょっと悩んだ表情で、俺とぐったりしている富田君を交互に見やりながら、険しい顔をする。
どうやって、富田君を奪って逃げるかな。
この状況で一戦交えても、多分すぐに決着はつく。
俺の体力で1時間ねばれたら御の字だ。
奪って逃げるにも、警戒されていて半端ない。
「…………俺、今すげえ、東高の奴等に怒ってるンだけど…………」
ピリピリとした緊張感が、周りの空気を包み込み凍らせる。
仕方がない。
名前も名乗らず、奪って逃げるが最適なんだけど。
ずっと戦わないように、出会わないようにしてきたんだけど。3年間の努力は水の泡なんだけど、これ以上富田君に怪我させたくないし、秘策しか乗り切る道はない。
ここは、切り札を使うしかないか。
「知ってるよ。えっと、ヤッちゃんにひでえことされたんでしょ」
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