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屈辱讒謗 →sideT
朦朧とした意識の中で聞こえる話し声に、オレの頭の中はパニックになる。
なんでコイツが、オレを助けになんかきてんだという敗北感と、情けなさに嫌悪がおきるみたいなモヤモヤ。身体の自由は効かずに目を開くことも出来ず、真壁の胸板の厚みを感じながら、抱きとめれている。
元宮の奴が、真壁に泣き付いたのだろうか。
大いにありえることだ。一年の頃は元宮は真壁の派閥の中でも、特に真壁のお気に入りだったのは知っている。
それにしても、真壁とハセガワと仲がよかったとは、マジで信じられない。
ハセガワもまるですっかりオレのことを忘れたかのように、無防備に真壁と話していた。
よいこらせと、背中に担ぎ直されて立ち去るハセガワを見送り真壁は駐輪場へと歩いていく。
なんだかんだ言っても、あのままじゃ確実に病院送りだったし、真壁に助けられたのも事実である。
恩を売られても、まずおかしくない状況だ。
まったく面白くはないが、忠告も聞かずに飛び出したのは自分のミスである。
真壁の広い背中はしっかりしていて少し落ち着くが、意識をたもっているのがぎりぎりの体中の痛みがある。必死におちないように腰にしがみついて、なんだかそれでもプライドをズタズタにされたような気持ちでやりきれない。
真壁が、いつも別に恩を売ってやろうとか打算的な考えを持ち合わせていないのは充分に知っている。
だけど、こんなのは屈辱でしかない。
急にぶいんぶいんと原チャが停止すると、体を肩に担がれる。
「…………オイ、ここどこだよ?」
声もひどく掠れてしまって、ガラガラである。
圧倒的強さの前じゃ、サンドバッグになるのが精一杯か。
「俺ンち」
日本庭園つきの立派な門構えで、政治家とか住んでそうな大きな邸宅である。
この金髪で、和風すぎるだろ。
それに………どこのぼっちゃんだよ。
まさか、ヤクザとかじゃねえだろうな。
真壁の足はでかく鎮座する本宅じゃなく、庭園の近くにある離れの方にむかう。
「ただいま」
鍵をあけてガラガラ引き戸をひらくと、返事を期待していない声で呟くようにそういう。
留守なのだろうか。
俺の靴を抜き取るように脱がして、床にほおって自分の靴を脱ぐと、俺を担いだまま二階への階段をのぼっていく。
「かーちゃんとここに二人暮らしなんだ。おっきいほうは、じいちゃんと、おじさんたちが住んでんの」
聞いてはいないが、真壁は詳しく説明をしてくれる。
あんまりちゃんと話したことはないが、真壁はかなり饒舌のようだ。普段から何を考えてるかまったく読めないやつだが。
まあ、しゃべっても、まったくわからない。
喧嘩は自分からしないタイプで、オレとはタイマンしちゃくれないが、コイツには決してかなわないと思う。
それでも、数だけで役立たずのコイツの兵隊と、俺の仲間達と一緒に闘えば利はこっちにあると思っている。
部屋に入ると、意外にも綺麗に片付けられていて、爽やかでシンプルな男らしい部屋である。
よいこらせっといって、真壁は俺を投げるようにベッドに降ろすと、机の上に置いてある救急箱を開ける。
「まったく……ホントに無茶するよねえ、富田君は」
消毒液を片手に手際よく俺の学ランをはいで、シャツまでさっさとぬがせると、俺の擦り傷に液体をかけていく。
消毒液は、傷口にヒリヒリと染み込む。
「ッ、、、…………っつ……なんで、アンタが…………ッいて…………」
なんでアンタが、オレなんかを助けにきたんだと聞きたかった。
真壁はオレの問いかけを、全てスルーして絆創膏を貼りながら、首をかしげる。
「ハルちゃんはさ、一年前トール君にひどくやられたから根にもってるんだよねェ。リベンジなら自分で潰しにいけばいいのにさ、かなわないからかな。オマエら2年生をトップちらつかせて煽るとか、ホントにやり方が気に入らないな」
東高の現トップである小倉瑶佳(おぐらはるよし)のことを、真壁はハルちゃんと呼んでいる。
タイマンでも、真壁は小倉さんに負けたことはない。
力的には真壁はトップなのだ。
「なんで……アンタはあの時、小倉さんを潰しにいかなかったンですか!!」
一年前、小倉派がハセガワにやられて弱体化したときに、叩いていたらこの人が東高のトップになっていたに違いないのだ。
なのに、小倉さんを叩くことよりも仲間を優先して、仲間に粉かけてきた他のチームを潰しにいって運悪く警察に捕まって補導されてしまったのだ。
結果的に真壁は停学をくらって留年したのだ。
それを見ていたオレは真壁に愛想を尽かして、真壁の下から抜けたのだ。
仲間思いでも、こいつにはトップをとれない。
「俺の喧嘩の理由にソレは入ってないからねェ。たとえば、ハルちゃんが俺のとこの子を虐めたらやりかえすけど」
ガーゼで俺の傷口を器用に覆いながらテーピングをしていく。
「オレはテッペンとりてえって思ってる」
「そっか。いいんじゃないか、野心も嫌いじゃないけどね」
子供を諭すようにすごいねと言われているのがわかる。
まったく相手にされていないのがわかって、ひどくいらつく。
こいつが嫌いで仕方がない。
助けられたのも、屈辱でしかない。
俺の傷を全部処置終わると、ひーつかれたーといいながら真壁は立ち上がる。
「喉かわいたべ、ちょっと飲み物とってくる。部屋の家捜しとかしねえでね」
にこりと笑いかけて、いたずらっぽい口調でいいながら、部屋を出て行く。
机の上には一応学校指定の教科書が置いてあるが、全然真新しくて綺麗につんである。
それに対して、本棚にはかなり読んでいるような、難しそうな本がギュウギュウに詰まっている。
オレの本棚にはマンガしか入ってねえのな。
変なアンバランスさをかんじる。
体を反転させて寝そべってみると、布団からふわふわといいにおいがする。
アイツ……こんな、いいにおいしてるんだな。
なんか殴られすぎて体がガッタガッタしていて、ぼんやりしてくる。
パンチドランカーにでもなっちまいそうなくらいの、脳震盪だった。
たまんねえな…………くそ。もっと、強くなりてえ。
せめて、1発だけでも食らわせられたら…………。
あ、あ、グラグラする、ぜ。
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