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目が覚めたら……。

彼を拐った男は悠真にそう言って怪しく話すと、電話越しで不気味にクスッと笑った。そして時計の秒針を刻むような声を出して迫った。 「チクタクチクタク……」 「や、やめろっ……!」 「チクタクチクタク……」 『やめろぉーーっ!!』 「キミの恐怖心が私にまで伝わってくるよ。ひょっとして、口から心臓が飛び出すくらい怖い?」 「ねえ、悠真君……」 「やめろ! 頼むからやめてくれ! こんな事をして何が楽しんだ!? こんな悪い冗談は今すぐやめろ!」 「私はキミの恐怖が倍増するほど楽しい。これは人間の生まれ持った『本能』だよ。誰かが不幸になるだとか、誰かが恐怖で怯えている姿だとか、キミだって見てて楽しいだろ?」 「なにっ!?」 「そう、まるでホラー映画を観ているようにね。キミだってそう言うのを観ると身体の奥から興奮するだろ?」 「っ、テメェッ!!」 「ホラー映画は加虐的なサディズムを楽しむのと同時に自分が責められるマゾヒズムな気分のどちらかを楽しむ映画だと言われている。ゆえに人間の本能であるエロスと紙一重でもあると言う説があるが。果たしてキミはどちらかな? 非現実的な話しだから観る相手はそれが楽しくてしょうがないんだよ」 「そう、例えば残虐なシーンだって見て気持ちが高揚するだろ。ハラハラしたり、ドキドキしたり、スリルを味わった気分になれる。あるいは、その相手になった気分で残虐な気持ちにもなれる。そうなるともっと怖いものが見たくなるって訳だよ。そう、一種の麻薬みたいにね。脳がそれを求めるんだ。もっと怖いものが見たいってね、キミだってそう言った経験があるだろ?」 「黙れ! この変態野郎ッ!!」 「ホラー映画だから、人はそれを見ながら平気でポップコーンを食べられる。こんなことは現実に起きないってね、安心するんだ。でもその境界線って一体どこだと思う?」 「くっ……!」 「自分こうはならないって安全な保障はどこにもないだろ? それは今日かも知れないし明日かもわからない。ましてやこんな大都会でそれはないって保障はどこにもないだろ。考えてごらんよ、毎日流れるニュースを。あれも一種のホラー的な要素が含まれている。そしてそれを見ながら自分じゃなかったと心の何処かで安心するんだ。人間ってものは所詮そう言った本能と、メカニズムで構成されているんだ」  男は淡々とした口調でそう話すと、電話越しで薄笑いを浮かべた。

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