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目が覚めたら……。
「キミはさっき何で自分がと私に質問したね? そんなことは、ホラー映画ではタブーな質問だ。殺人鬼に追いかけられてる主人公が、何で自分がとスクリーンの前にいる観客に問いかけるか? そんなことは言わなくてもわかるだろ。そこに、たまたま居たからだ。キミは私の映画の『主役』として選ばれたんだ。だから最後まで、私を楽しませてくれ――」
何で俺がこんな……!
クソッ! ちくしょう!
『アンタはイカれてるっ!!』
理不尽な状況に怒りがおさまらなくなると、電話越しにいる犯人に向かって怒鳴り散らした。
「イカれてる? フフッ、本当にイカれてるのはサイコ野郎のことを言うんだよ。品の無いあいつらと私を一緒にしないでくれたまえ」
「ってメェ……!」
「そうだね……。キミを連れて火葬場の焼却炉までドライブってのはどう? そこでキミが入ってる箱を車から降ろしても、誰も疑わないだろうね。どう、今のゾッとした?」
悪戯にそのことを話すと、おかしそうに笑った。悠真は携帯電話を片手にその話しを聞きながら、恐怖心が一気に高まった。
ダメだ! こいつイカれてる! 早くここから脱出しないと、俺はきっと殺される…――!
「警察に通報してやる! それで、この悪趣味なゲームは終わりだ! アンタはイカれた奴として警察に捕まるんだ――!」
「へぇ、それはまた勇ましいね。どんな罪?」
「決まっているだろ!? 監禁罪に脅迫罪だ! アンタは捕まって、そのまま精神病棟にでも一生入ってろっ!!」
「精神病棟? 随分と甘いんだな悠真は。そんな所に入っても私は直ぐに脱走するだけだ。そしてキミに復讐しに会いにくるよ?」
「ふっ、復讐…――!?」
その言葉に全身から血の気が引くのを感じた。確かにそれは、あり得る話だった。精神病棟から抜け出して復讐しに来るのはないとは限らない。いや寧ろそうなった場合、犯人の怒りはただでは済まされないだろう。俺はその時、自分が言った言葉に瞬時に『しまった』と感じた。
「キミはジョン・カーペンター監督のハロインの映画は知ってるかい?」
「何……!?」
「精神疾患で殺人鬼のマイケル・マイヤーズと言う男が自分の妹のローリーを殺すために精神病棟から脱走して殺しに行くって話だ。キミが今その事を話したから思いついたんだ。そうだねぇ、私が捕まって精神病棟にでも入れられたらそこから脱走してキミに会いに来るのも悪くないかもね」
「なっ、なんだと……!?」
「たとえばキミに家族が出来て妻と子供がいたのなら、キミに会うついでに2人を殺すのも悪くないだろ――?」
「やっ、やめろ! やめてくれ、頼むっ!!」
「殺人鬼に向かってやめろはタブーだろ。映画の中の主人公が殺人鬼に向かって簡単に屈するか?そんな所を観客は観ても楽しくないだろ。どうせ観るなら殺人鬼に勇敢に立ち向かう姿や、戦う姿のどちらかだろ? それか主人公が殺人鬼に最後は無惨にも切り刻まれるシーンだ。ちがうか? マイケル・マイヤーズだったら迷わずキミとキミの家族を殺すだろうね――」
「あんたはどうかしてる、イカれてる……!」
暗闇の中で得たいの知れない恐怖心が一気に胸の中に押し寄せた。その恐怖を目の前に携帯電話を片手に全身がガタガタと震え上がった。
何でこうなった?
何でここにいる?
それすら疑問も男は何一つ教えてくれなかった。ただ言えるのは犯人が俺を『憎んでいる』事だけはわかっていた。
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