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悪夢の始まり
「さあ、お食べ。君の為に特別に美味しいお肉を買ってきた。悠真君はステーキとか好きだろ?」
「ふざけるな…――! テメェは一体、誰だ!? 何で俺の名前を知っているっ!?」
薄気味悪い仮面を被った男は、俺の質問に全く答えずに食べる事を進めてきた。
「誰が食べるか、俺はアンタの人形じゃない!」
敵意を剥き出して言い返すと、男は更に音量を上げてきた。部屋の中に薄気味悪いクラッシックの音楽が大音量で流れた。その音楽を聞くと頭のてっぺんがキリキリと締め付けられるように痛くなったのを感じた。
「あぐっ、くそっ! や、やめろ! 今すぐその音楽をとめろぉー―っ!!」
「フフフッ。じゃあ、素直に食べるんだ。ヴェルディのレクイエムの音楽を聞きながら食事をするのは最高だと思わないかい?」
「くそッ! ふざけんなっ!!」
「何をモタモタしてる! さあ今すぐ食べろ!」
仮面を被った男は急に態度変えると、そのまま俺の方に歩いてきて、いきなりテーブルの上に、頭を無理やり押さえつけてきた。
ガシャン!
その瞬間、食器の揺れる音が響いた。テーブルの上に無理やり頭を押さえつけられるとそれを振りほどこうと力いっぱいに暴れた。だが、物凄い力だった。 男は力で強引に捩じ伏せようとしてきた。
くそっ! ちくしょうっつ!!
両手さえ鎖が外れたら自由がきくのに、鎖が邪魔で掴まれた頭を振りほどくことも出来なかった。そして、耳元で落ち着いた口調で一言囁いた。
「さあ、冷めないうちにお食べなさい」
『くっ、俺に命令するなぁああああっつ!!』
力いっぱいに叫んで抵抗するとその瞬間、顔の真横に鋭いナイフがテーブルの上にグサッと突き刺さった。間近で見たナイフに驚愕すると、全身から一気に血の気が引いて凍りついた。
まっ、マジかよ……?
男の常軌を逸した行動に絶句すると息を呑んだ。一瞬、映画かドラマのホラーシーンを自分が体感しているようだった。常識じゃありえない事態が今起きてる事に全身に恐怖を感じた。
――男は『本気』だった。
尋常じゃない状況に身の危険を感じ、仕方なく抵抗をするのを止めた。 それに無理に暴れると、頭がズキズキする。今だに酷い頭痛がとれる事もなく気分は最悪だった。
「っ……! は、離せよ! 食べれば良いんだろ!? 食べれば!?」
「ちくしょう、クソッタレ…――!」
男は俺の頭から右手を離すと、テーブルの前に椅子を置いて座った。
「さあ、今度こそお食べ」
「………」
半ば強制的に食べる事になった。ここでは自分の意思すら無意味だ。まるで、コイツの言いなりになったような感覚に落ちた。
両手だけ鎖を外されると、焼かれたステーキを目の前にナイフとフォークを手に持って食べる事にした。
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