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悪夢の始まり
ステーキを切って一口食べてみた。味はよくわからない。変な味がした。それより、ステーキはレアのような気がした。さっきから頭がズキズキしているせいなのか、美味しいのも判断できないような状態だった。
ひょっとしたら不味いのかも知れない。でも、このステーキの肉は不思議と不味くはなかった。しかしどうもなにかがおかしい。こんなおかしな状況のせいか、色々な事が頭の中に過った。出されたステーキを食べながら、目の前にいる仮面の男を考えた。
こいつは誰だ?
それに俺は何故ここにいる?
どこから来た?
――わからない。思い出そうとすると、何故か急に頭の中がグチャグャになる。何かが記憶から抜け落ちている感覚だ。だから余計に警戒心だけが、高まった。男は俺がステーキを食べてる姿を見て笑って見てる気がした。
「どうだい悠真君。お味の方は?」
「…………」
「私はね、キミが食べてる所を見ていると自分の性欲が掻き立てられる気分だよ」
「なっ、なんだって…――!?」
「ふふふっ、なんて今のは単なる冗談さ。キミは怒った顔も素敵だね?」
「…………」
「ああ、でも。食欲とエロスは共通しているって話しは知ってるかい?」
男は俺の苛立ちには気づかずに、目の前で呑気に話を続けた。
「おい、アンタ。この肉は一体なんだ? それになんか変な味がするぞ」
「へぇ、どんな味だい?」
「惚けるな、この肉は何だって聞いてるんだ!」
急にカッとなると、持っているフォークとナイフをお皿の上に投げ捨てた。
「知りたいのかい? じゃあ、特別に教えてあげよう。きみが食べた肉は『人』の肉だよ――」
仮面の男はそう言って話すと怪しく笑った。その瞬間、頭の中が強い衝撃に襲われるとそこで突然猛烈な吐き気に襲われた。
『ウグッ!!』
信じられないような衝撃的な言葉に、吐き気が体の中から押し寄せた。俺は知らぬ間に人の肉を食べてしまった。
その衝撃は大きかった。激しい吐き気に襲われると、男は右手で背中を擦ってきた。
「大丈夫かい、悠真君。そんなに噎せちゃって。よほどショックだったのかい?」
「はっ、離せ! 俺に触るなイカれサイコ野郎! 俺によくも、そんな物を食べさせやがって……! お前なんて…――! うわぁあああああっつ!!」
あまりの衝撃にそこで一気に取り乱した。いや、誰でもそんなことを言われたら取り乱すかも知れない。 ましてや、人の『肉』なんて異常だ。
コイツはイカれてる……!
俺は一体、誰の『肉』を食べてしまったんだ!?
俺は一体…――!
強い吐き気に襲われながら必死で堪えた。すると奴は俺の耳元で囁いた。
「フフフッ、冗談だよ。まさか本気にしたのかい?」
その瞬間、その言葉を皮切りに一気に怒りが頂点に達した。急にカッとなると、思いっきり胸ぐらを掴んだ。そして、感情のままに首元にフォークを突きつけた。
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