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克哉
警察官は難しい顔をしながら淡々と話した。
「まあ、弟さんの事で焦る気持ちもわかりますが同じような捜索届けなら毎日、何件も署に届いてます。何も珍しいケースではありません。それに我々も、そんなに暇じゃありませんよ。一つ一つ捜索にあたっていたら、それこそ我々も大変なんです」
『なっ、何だと……!?』
「とにかく今日の所は一旦、お引き取り下さい。取り合えずこの捜索届けはこちらの窓口で預からせて頂きます。では、一週間経っても弟さんが家に帰って来ない場合はまた署に来て下さい。その時は対応しますので――」
そう言って警察官は彼から捜索届けが書かれた紙を受け取ると、それを一度も見ずに。そのまま黒いファイルに挟んで、引き出しの奥にサッと閉まった。
「まだ何か?」
ファイルを引き出しにしまうと警察官はまだ何か用があるのかと、あからさまに面倒臭そうな顔で聞き返した。窓口にいた警察官の無関心で、ふてぶてしい態度に克哉はグッと拳を握って堪えた。
「っ……!」
そこで怒りが抑えられなくなると、彼は目の前にいる警察官に向かって一言言い返した。
「ちゃんと、ちゃんと弟を探して下さい……!! もし弟の身に何かあったら、貴方が責任をとって下さるんですかっ!?」
「おい、何だね君! それは私への脅迫か!? 弟さんが帰って来ないからって、私に八つ当たりしないでくれたまえ!」
『くそっ……!』
一向に埒があかなくなると、克哉は怒りながら警察署から出て行った。外に出ると警察署の前に両親が心配そうに出迎えた。
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