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いつか誰かの記憶

 はじまりは一体、何だったのか。気がつくと、あいつはいつも俺の事を遠くから見ていた。声をかけると直ぐに逃げた。その繰り返しだった。  俺の何もない無色透明な世界で、あいつだけが唯一の色だった。春の穏やかな陽射しのように、何故かあいつと一緒に居ると温かい気持ちに胸が満たされた。この感情にもしも、意味を見出すとしたらそれを人は『恋』と呼ぶのだろうか。 ――校舎の渡り廊下でたまに目と目が合った。自分の方からジッと見つめると、あいつは直ぐに瞳を反らした。いつもは向こうからこっちを見てくるのに、俺がさきに見つめると瞳を反らす。  変な奴だ。  向こうは人の顔をよく見てくる癖に、俺から見つめると瞳を反らしてくる。そして、気づかないフリして横を素通りする。  でも、なんだかそれが嫌じゃない。 あの時の俺達は二人して、視線の追いかけっこをしていた。

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