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いつか誰かの記憶

 脅かしてやろうと思った。  いつもの渡り廊下であいつとすれ違った時に、不意にそう思った。  本を読んだフリして、何食わぬ顔で横を素通りした。あいつはまた俺のことを見つめてきた。  いつもだったらその視線に気がついて、黙って見つめ返しながらあいつの横を素通りする。 その日もそのつもりだった。だけど自分の気持ちが抑えきれなかった。先に行動に出たのは、俺の方だった。 素通りした瞬間、あいつの細い腕を掴んだ。手に持っていた本を床に落とすとそのまま、あいつの腕を掴んで強い眼差しで見つめた。そして、次の瞬間、ら俺は初めてその子に話しかけた。 「なあ、何で俺をいつも見つめるんだ?」  こっちから話しかけておいて、意地悪な質問をした。その時のあいつの顔が、今でもハッキリと覚えている。  困った顔をしていた。そして、その表情は頬を赤く染めていた。もしかしたら気づいては、いけなかったかも知れない。    その瞳は『恋』している目だった。    その瞳に俺は一瞬で魅せられたーー。

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