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支配者
「ああ、それともキミは。ぶたれたり殴られたりされる方が好きかな? 私にはそう言った迷いはないからね。キミを傷つけるのは簡単なことだ。それに殺せる。だけど、可愛い悠真を私は傷つけたくない。出来ればこのまま大人しくしてくれると助かるよ。それにね、私を余り『怒らせない』事だ。もう一人の方は凶暴な性格だから手に負えない。だから、解ってくれるよね?」
「……もう一人?」
悠真はその言葉に妙な違和感を感じると、目を細めて聞き返した。だけど、仮面の男はそれ以上話さなかった。
「――ああ、そうそう。自己紹介がまだだったね。何せ初めての『誘拐』だったから肝心な自己紹介を忘れていたよ。それにキミを殺すか生かすかはあの時まで二人で考えていたからね。でも、殺さなくて正解だったよ……。キミと一緒にいると私はとても楽しい。キミがあの時、水を飲んでくれて良かった。でないと今頃はとっくに死んでいた」
「なっ、何……!?」
その言葉に驚くと、表情を凍りつかせた。男は仮面の下に隠した狂気を徐々に見せてきた。背筋がゾッとするようなその言葉に、体が凍りつくと息を呑んだ。
「悠真は私のお気に入りなんだ。だけどもう1人の彼はキミのことが嫌いみたいなんだよ。だからついカッとなる時があるかも知れないけど許してやってくれ。それとキミがもう少し良い子で大人しくしてくれたらその手錠を外してあげる。それまではベッドの上で生活して貰うからね。あと、シャワーとトイレはそこの奥の扉だ。好きに使っていいよ」
仮面の男はそう話すと、ベッドの前にある奥の扉を指差した。悠真はそのまま無言で黙った。
「他に質問はないかい?」
「あるに決まってるだろ! お前は一体、誰だ! 何で俺をこんな目に遭わす!? 今すぐ質問に答えろ!」
悠真はそう言って質問した。すると仮面の男は突然、肩を震わせて目の前で笑った。
「そうだねぇ……。強いて言えば『過去』。または私は過去の『亡霊』だ。それはキミの過去達に、関係しているのかも知れないね?」
「それはどういう意味だ……!? 話を逸(はぐ)らかすな!」
そこで思わずカッとなると、仮面の男に向かって枕を投げつけた。投げつけられた枕を避けると、彼はそこでヒントを与えた。
「――ねぇ、人は本気で誰かを憎たらしいと思ったら何をすると思うかい?」
「何っ……!?」
「この場合は殺すが正解だ。だけどそれじゃあ、呆気なく終わる。どうせならその相手に悲劇的な終わり方を望むだろ? それに本気で憎たらしいと思っているんだ。だったらどうすればいいか、キミにもわかるだろ」
そう言って男は冷酷な声で静かに語った。
「劇的な終わりで尚且つパフォーマンス性が高いのはなんだと思う? 答えは簡単『復讐』だ。私は過去から復讐する為に、キミを誘拐したんだよ――」
『なっ、なんだって……!?』
その言葉に驚愕すると大きな衝撃を受けた。
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