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─輪─

俺なんて構わないでほっとけばいいのに、アイツはいつも話しかけてきた。内容は俺には全く興味がない下らない話だった。だが、そうやって相手に段々と話しかけられてるうちに、俺からも少しづつ話しかけた。 悠真は話しやすい性格だった。別に気取ってる所もなく、鼻につくような嫌な性格でもなかった。それに明るくてよく笑う奴だった。俺には無いものをアイツは持っていた。それが羨ましくもあり妬ましくもあるのは事実だった。 俺には友達が少ない。だが、アイツは俺にとって『友』と呼べる存在になってたのかも知れない。そんな時からだろうか俺の人生の歯車は再び狂い始めた。  きっかけは慣れない環境でのストレスだった。大学に受かったものの、住んでる処から通うには遠い。だから両親と離れて都会に一人、上京して独り暮らしをした。  家にいる時は何でも身のまわりの世話を母親がやってくれた。俺はそれに頼ってばっかだった。そして、独り暮らしを始めた頃には、それが逆に仇となった。一人で何でも出来ると思っていてもいざやってみると空回る。その繰り返しだった。おまけに些細なことでもストレスが溜まった。  歩き慣れない街の景色に戸惑いながら、都会に一人で上京して、知り合いも少ない。頼る相手もいない。自分だけが孤立しているような孤独感に苛まれた。 そんな時に街中であるものを目にして、店の前で足を止めて立ち止まった。それは俺にはまったく『無縁』の世界だった。それに一歩、足を踏み入れたとき。俺の世界は一気に変わった。  初めてやって勝った時は、気持ちが高揚した。それは今まで感じた事がないスリルだった。その時の気分は最高だった。 溜まっていたストレスが消え去るのは俺にとってもいい事だった。その時に一回だけと自分に言い聞かせてやった事が逆にドンドン深みにハマってしまった。まるで底なし沼のように、どんどんと落ちて行った。そして、ついには両親から送られてきた仕送りにも易易と手を出すようになった。  使ってはいけないお金に触れた時、もうその時には手遅れだった。その日、俺はアイツに電話で呼び出された。『アレ』を受けとる為に呼び出されたが、よりによって何故ここなのか。そんなことを考えながらも店の中に入り、空いてる台の席に適当に座った――。  

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