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─輪─
――店内はうるさい雑音と、タバコの臭いが漂っていた。そして、無数の機械の音がホールにの中で大きく響いていた。この日は人の出入りが少ないのか客が疎らに空いている台の前に座っていた。彼らはただ前だけをジッと見てハンドルを握ってパチンコの台で黙々と玉を打っていた。
少し店内に入っただけなのに、胸の辺りからザワザワする感情が芽生える。それは一種の『乾き』に似た感情なのか。ほんの少しでも、そこに居るだけでも気持ちが落ち着かなかった。
空いている台の席に座ると特に何かをする事もなく。あいつが来るのをただ待った。そして自分の親指の爪を噛むとなるべく周囲を見ないようにして下を俯いた。
耳に入ってくる機械の音とパチンコの玉が出るあの音が聞こえるとさらに胸の奥がザワザワしてきた。このまま此処であいつが来るのを待つのも俺には苦痛だった。段々と気持ちが苛立ってくると、早く来いと思わず相手に電話しようとした。
その時だった。隣の空いている台の席に誰かがドサッと座った。そして、座った相手は台のハンドルを握って回すとパチンコの玉を打ち出した。そこでハッとなると顔を上げて隣を見た。
「ん~、これこれ。この玉が出る音が堪らない。なぁ、お前もそう思うだろ?」
俺の隣には真樹が座っていた。あいつは、平然とした様子で玉を打ちながらそう言って話しかけてきた。その言葉に何故か喉が渇いてきた。あいつのニヤケた表情が目障りだった。目を反らすと、再び下を俯いた。
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