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【第16話】―囚われの過去―
――あれは暑い日差しが照らす真夏の午後だった。その日、授業を抜け出してアイツと一緒に図書室に隠れた。
別に授業をサボるつもりはなかった。ただそんな流れに身を任せたら、気づいたら二人で図書室にいた。アイツは隣で悪戯に笑うと、白い手で俺の腕を掴んで本棚の方へと導いた。そして、そこで初めてのキスをした。
驚いた気持ちと罪悪感とは裏腹に何故か気持ちが高揚した。そして、その行為に神聖さを感じた。アイツはいつでも無邪気だった。
俺と同い年の癖に見た目が幼くて、それに何処か可愛げがあった。きっと憎めない相手とは、ああ言った奴の事を言うのだろう。アイツには裏表も無く、一緒にいると心が不思議と安らいだ。
俺の腕を離すとアイツは悪戯に笑いながらカーテンの奥に隠れた。夏の日差しの暑さもすっかり忘れて、俺はいつの間にかアイツに夢中になっていた。
開け放たれた窓の外からは、爽やかな風と共に吹奏楽部の楽器を鳴らす音がした。バイオリンとフルートの重なる音色は、夏模様の空に響く繊細な音を奏でた。
あの瞬間は今でも色褪せずに、ずっと心に残っている。風で揺れてるカーテンの奥に隠れたアイツの姿を探すと、そのまま手首を掴んで自分の方に抱き寄せた。そして、耳元でそっと愛を囁いた。アイツは顔を赤くすると何も言わずに小さく頷いて瞳を閉じた。そして、俺達は幼い恋に溺れた。
そう、あの時。あの瞬間の『夏』は二人の中では永遠だった――。
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